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期待NPVの落とし穴

企業経営者が将来の不確実性をどのように考えるべきか世の中にはいろいろな議論があります。今回はファイナンス的に考えてみたいと思います。

ここにプロジェクトAがあります。このプロジェクトは初期投資が200億円必要です。あなたは二つのシナリオを考えました。ベースシナリオでは、毎年100億円のフリーキャッシュフロー(FCF)を生み出せると予想。一方、悲観シナリオでは、毎年▲50億円のFCFとなってしまう。

このプロジェクトAのNPVの算定方法は、ファイナンスのテキストではこのように説明されます。

「プロジェクトの期待FCFを資本コストで割り引きなさい」

仮にベースシナリオの発生確率が60%だとすれば、期待FCFは、毎年40億円(=100億円×60%+▲50億円×40%)になります。プロジェクトAの期待FCFの現在価値は、資本コストが10%とすると、400億円(=40億円÷10%)。ここでは、永久債の現在価値の公式PV=CF/rを使っています。

初期投資は200億円ですから、NPVは200億円となります。これをしばしば期待NPVと呼びます。理論的に言えば、この期待NPVがプラスであることから、プロジェクトAは実行すべきとなります。

ここで気をつけなくてはいけないことは、あなたが、ベースシナリオと悲観シナリオの二つを想定している以上、このプロジェクトAが毎年40億円のFCFを生み出すことはないということです。なぜなら、あなたが想定しているFCFは、毎年100億円か、毎年▲50億円だからです。期待NPVが200億円と言っても、NPVが200億円となることは、それこそ期待できないわけです(あなた自身も想定していません)。

この情報をそのまま意思決定者である経営者にみせた場合、ミスリードする可能性があります。経営者にとっては、期待NPVが200億円という情報よりも、NPVが800億円(=1,000億円-200億円)の可能性が60%、NPVが▲700億円(=▲500億円-200億円)になる可能性が40%だという情報の方が大切でしょう。

このような情報があれば、ベースシナリオと悲観シナリオの内容と発生確率を吟味し、ダウンサイドリスクをとるだけの十分なメリットがあるのか、悲観シナリオが仮に実現した場合にも事業の継続性は担保されるのか等々検討することができます。

仮に悲観シナリオが実現した場合に、企業の屋台骨を揺るがすような状態が想定されるとしたら、期待NPVが200億円だったとしても、経営者はこのプロジェクトを実行すべきではないでしょう。期待キャッシュフローから導き出される期待NPVは、理論的には正しいものの、ある特定のシナリオを見えなくしてしまうという危険性があることを私たちは十分認識しておく必要があります。

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