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キーエンス、強さの秘密

キーエンスの2021年4月から12月の連結売上高は前年同期比で45%増加の5453億円となりました。国内外で自動化ニーズや生産性向上に対する設備投資が一気に戻ったのが要因です。同社は業績予想を発表していませんが、その理由を問われて、社長の中田氏は、「環境変化は、読もうと思っても不可能です。新型コロナを誰も予想できなかったですし、こうしたことで一喜一憂するのは、あまり意味がないと考えています。同様に中期経営計画もありません。着実にやるべきことを見極めることの方が大事です。」と答えています。

同社の時価総額は10年間で13倍超にふくらみ、いまやトヨタ自動車、ソニーグループにつぐ第3位の位置にあります。また、収益性の高さでは群を抜いており、売上高営業利益率は55.4%とオムロン11.9%、ファナック25.9%を凌駕しています。キーエンスが手掛ける製品は、センサーを中心とした電子機器です。工場の製造現場で異常を発見したり、生産性を高めたりするための機器です。同社は1万種類以上の製品を手掛けていますが、新製品の約7割が「世界初」「業界初」だといいます。他にない機能や使い勝手のいい製品が高く売れるのはある意味で当たり前かも知れません。

同社の強みについて中田社長は、こう言っています。「我々の最大の強みは、本当の意味で顧客の役に立てること。まずは潜在ニーズをしっかり把握した上で、世の中に存在しない新しい付加価値を持った商品を生み出すことが重要になります。その商品を熟知した営業担当が顧客の状況を聞き出しつつ、課題を解決していくのです。」この「潜在ニーズ」の掘り起こしと競合を出し抜く「スピード」を追究するためにキーエンスがこだわるのは、直接営業です。競合他社が代理店を使った間接営業を主軸にするのと異なります。

また、キーエンスは人材の育成方法にも特徴があります。4つの仕組みを毎日繰り返すといいます。その一つがロールプレイングです。同僚を顧客と想定しロールプレイングを通して顧客への対応力を磨いています。これを、それこそ歯を磨くように毎日繰り返すわけです。

次に、社内の合言葉「最小資本で最大効果」によく表れていますが、1訪問当たりの生産性を最大限に高めるための仕組みが「外報」と呼ばれている外出報告書です。営業担当者は毎日、商談を振り返ります。どこに訪問して誰と会い、反応はどうだったか。顧客とのやり取りを分刻みでタブレットに記入し、上司と共有するわけです。当日の成果だけではなく、翌日以降の訪問先も、外報を使って事前に上司と打ち合わます。訪問先1件ずつ、その目的を問われるといいます。「なんで?」「その目的は?」が頻繁に飛び交うのもキーエンスの社内の特徴です。また、訪問アポが5件以上ないとそもそも外出を認められません。

そして、「ニーズカード」です。商談で重要な情報が得られた場合は外報に加え、「ニーズカード」を作って開発部門と共有することになっています。1万種超の製品を扱い、業界初と世界初が新製品の7割を占めるキーエンスです。この仕組みこそが開発力の源泉といえます。キーエンスには「顧客が欲しいというものを作らない」というポリシーがあるそうです。これは、先述したキーエンスの強みにつながります。目の前の課題解決に悩む顧客は、問題の本質が見えていない可能性があります。キーエンスはその問題の本質を見つけ出し、それを解決することを目指しているわけです。この顧客自らも気づいていない潜在ニーズは、キーエンスにとっては宝の山といえます。

最後に、「ハッピーコール」と呼ばれる仕組みがあります。部下が訪問した企業に対し、管理職がフォローのために電話することです。顧客ニーズをきちんと聞き出せたかなどを再確認するのが目的だと言われていますが、この電話により「サボり」が発覚することもあるといいます。

ロールプレイング、1日最低5件以上の顧客訪問、分刻みのスケジュール管理、外出報告書に基づく上司とのディスカッション、ニーズカード、ハッピーコール。こういった人材育成の仕組みがキーエンスの最大の資産である人財を生み出しているといえます。

参考文献:日経ビジネス 2022年2月21日号 解剖キーエンス 人を鍛える最強の経営

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