ある経営者の集まりに呼ばれたときに、懇親会で私にこんなことを話してくれた方がいました。「私はSINIC理論に基づき、起業し経営をしてきました。この理論のおかげで今の私があるといえます。私の羅針盤といえる存在です。」そんな理論の存在を知らなかった私は、それがオムロンの創業者のつくった理論だと聞いて、家に帰るやいなや、オムロンのサイト「未来を描くSINIC理論」を見にいった覚えがあります。
SINIC理論は、今から半世紀以上前の1970年に、オムロンの創業者である立石一真と中央研究所の創設メンバーによって構築された未来予測理論です。SINICとは、Seed-Inovation and Need-Impetus Cyclic Evolution of technological innovationの頭文字をとったものです。オムロンでは、これを「サイニック理論」と呼んでいます。
このSINICの意味を日本語で表現すると、「科学が技術の種となり、技術はその社会的価値によって、さらなる科学の発展に刺激を与える。そのような円環的な技術革新の進化」となります。言いかえれば、科学、技術、社会が相互に影響しあって、社会発展が進むということを、人類史全体を俯瞰しつつ、未来展望した未来予測理論といえます。
創業者の立石一真が経営をする上で大事にしたのがダーウィンの進化論でいうところの「適者生存の法則」です。この法則は地球上の生きとし生きるものは、その環境変化に適応し、不断の変化を遂げてこられたものだけが生き延びてこられたという考えです。企業もまた同様だと考えたのです。
特に、ものづくりメーカーは、その時代の社会の要望(ソーシャルニーズ)にこたえられる技術、商品を開発する必要があります。立石一真はすでに顕在化しているソーシャルニーズではなく、近未来のソーシャルニーズをあぶり出し、新たなソーシャルニーズを創造することを経営の根幹と考えたのです。そのためには、この工業社会が今後、いつ頃からどのような社会に変貌していくのかを考える必要があったのです。
SINIC理論によれば、現在の私たちは「最適化社会」にいます。そのあと、2025年から「自律社会」、そして2033年からは「自然社会」に移行すると予測しています。これから迎える自律社会では「人」はどうなっていくのか、その自律社会を支える技術はどのようなものなのか。最近、このSINIC理論のテキストブックとも言える本「SINIC理論」が出版されました。サブタイトルにある通り、「過去半世紀を言い当て、来たる半世紀を予測するオムロンの未来学」です。これからの未来を生きるための羅針盤となり得るのではないでしょうか。お薦めします。
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