社長ブログ社長ブログ

日産自動車25/3期決算の裏側:本業赤字を隠す「販売金融」

今回は、日産自動車の過去5年間(2021年3月期~2025年3月期)の業績推移を分析します。24/3期までの回復基調が、25/3期になぜ急減速したのか。企業価値評価の視点から、連結利益の裏に潜む本業の赤字、日産自動車の真の実力をセグメント利益とFCFから徹底解剖します。

1. V字回復は一時停止、25/3期は最終赤字に転落

2021/03期はコロナ禍と構造改革費用の影響で最終損失が拡大しましたが、その後は価格・ミックス改善と費用最適化で黒字化しました。24/3期にかけて売上と利益は山を作りました。一方で25/3期は、売上は横ばいながら営業利益が大きく縮小し、最終損益は赤字に転落しました。

主要数値(単位: 百万円)

営業利益は前年から87.7%減となりました。最終赤字の主因は、販売不振やインフレに加え、会社開示ベースで減損や構造改革関連の一時費用計上などが重なったためです。企業の稼ぐ力を把握するためには、営業利益はもちろんのこと、キャッシュフローの動向を確認する必要があります。

2. 本業は赤字:「販売金融が稼ぎ・自動車が消す」の非対称構造

25/3期(12か月)のセグメント利益を分析すると、日産の収益構造に潜む脆弱性が明らかになります。

セグメント別の売上と利益(単位: 百万円)

出典:マネックス証券

ポイントは二つあります。一つ目は、売上構成の約90%を占める本業の自動車事業が約2,680億円もの赤字であることです。価格維持やコスト、販売ボリュームの揺れに収益が敏感です。二つ目は、販売金融が高利益率(おおむね20%超)で安定的に稼いでいることです。販売金融の利益が、自動車事業の赤字を埋め合わせ、連結利益を下支えしています。

3. 【要注意】セグメント利益と「調整額」の大きなズレ

セグメント利益の単純合算は連結営業利益と一致しません。社内取引消去や未配賦費用などを含む調整額が非常に大きく(25/3期は 53,130百万円)、この調整額の大きさと持続性も、連結利益を読み解く上での重要な注意点です。

4. 資金繰りの黄色信号:FCFがマイナス転落、外部資金で補填

企業の資金創出力を示すフリーキャッシュフロー(FCF)も悪化しています。ここでは、FCFは「営業CF+投資CF」で算出します。

キャッシュフロー推移(単位: 百万円)

25/3期は、営業CFの縮小と設備投資の増加(投資CFの拡大)により、FCFが-2,175億円のマイナスに転落しました。財務CFは2,633億円と資金調達しており、マイナスFCFを外部資金(借入など)で補った形です。

5. 足元の不安シグナル(四半期)

25/06(1Q)でも自動車セグメントは赤字が継続しており(-172,091百万円)、短期的な自動車の黒字転換はいまだ見えてきていません。中期計画に沿った改善の方向性は示されているものの、短期的には業績の不安定さが残ります。

出典:マネックス証券

まとめ

24/3期までの回復は本物でしたが、25/3期は投資優先と自動車部門の不調により、数字は重たく見える年になりました。販売金融は堅調ですが、本業の自動車の黒字化とFCFのプラス転換が喫緊のテーマです。中期計画(The Arc)で掲げる構造改革の進捗度合が、来期以降の損益とキャッシュの回復力を左右します。つまり、PLだけでなくCFとセグメント別の業績をセットで見ることが、日産の「未来」を読み解く鍵だと思います。

動画配信開始