FP&A(Financial Planning & Analysis)の実務家だったら、ジャック・アレクサンダー氏の名前は知らない人はいないらしいです。私は知りませんでした。
そんなジャック・アレクサンダー氏の名著と言われる『Financial Planning & Analysis and Performance Management』が、ついに『経営管理・ファイナンス部門のためのFP&Aのすべて』として邦訳されました。帯には堂々と「バイブル」と書かれていますが、実際に読んでみて、その看板に偽りはないと感じました。
今回は、私が実際に本書を手に取り、特に印象に残った3つのポイントをご紹介します。
1. 圧倒的な分量でも、驚くほど「読ませる」語り口
本書を手に取ると、その厚みに圧倒されるかもしれません。560ページを超える大著です。しかし、ページをめくってみると、その懸念はすぐに払拭されます。
学術書のような堅苦しさはなく、著者がまるで隣で語りかけてくるような、非常に読みやすい文体で書かれています。辞書的に必要な箇所を拾い読みするのも良いですが、ファイナンスや会計の基礎知識がある方なら、そのリズムの良さに、意外なほど短時間で読了してしまうはずです。
2. 「分析屋」から「ビジネスパートナー」への進化論
本書が単なる「企業分析の手法の解説書」ではない点は、FP&Aの機能や役割についての記述に表れています。
特に、経営者や上級管理職、そして他部署のメンバーと「どのようにコミュニケーションをとるべきか」について、具体的かつ実践的に記されている点が秀逸です。数字を作るだけでなく、その数字を使ってどう現場を動かし、経営の意思決定を支援するか。FP&Aが「分析屋」から真の「ビジネスパートナー」へ脱皮するための行動指針がここにあります。
3. 「明日から使える」強力な武器(Excelモデル)
そして、実務家にとって最もありがたいのが、付属のウェブサイトからダウンロードできるリソースの充実ぶりです。
本書で解説されている経営ダッシュボード、分析ツール、そして財務モデルがExcelで提供されており、これらは今すぐにでも自社の実務に適用可能です。「理論はわかったけれど、どう実装すればいいの?」という壁を、このツール群が一気に取り払ってくれます。
『道具としてのファイナンス』を読んでくださった方へ
私の著書『道具としてのファイナンス』や『ざっくり分かるファイナンス』では、ファイナンスの理論をどう現場で「道具」として使うか、という視点を大切にしました。
今回ご紹介したジャック・アレクサンダー氏の本は、その「道具」を使って、具体的にどうやって会社全体の計画を回し、経営の操縦席(コックピット)を作るかという、さらに一歩踏み込んだ実務の設計図と言えます。
まずは私の本で「ファイナンスの考え方」をインストールし、その上でこの本を辞書代わりにデスクに置いておけば、鬼に金棒です。実務で迷ったとき、必ず答えが見つかるでしょう。
この6,300円は「買い」か?
価格は6,300円+税。ビジネス書としては高額な部類に入るかもしれません。しかし、得られる知識、実践的なノウハウ、そして即戦力となるExcelツールの価値を考えれば、この価格設定は決して高くありません。断言します。ほとんどの読者にとって、この本への投資は「NPV(正味現在価値)ポジティブ」な買い物になるはずです。FP&Aの領域でプロフェッショナルを目指す方、あるいは経営の舵取りを数字で支えたい方にとって、手元に置いておくべき一冊です。



