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航空業界回復にかける三菱重工

新型コロナ禍の影響が航空業界に重くのしかっています。米国の著名投資家ウォーレン・バフェット氏率いるバークシャー・ハザウェイは5月2日、年次株主総会を開きました。そこで、保有していた航空株を全て売却したと明かしました。バフェット氏は米国経済の明るい未来を信じる一方で、「外出制限が人々の行動に与える影響は分からない。3~4年後に、昨年までのように飛行機に乗るようになるのか見通せない」と悲観的な見方を示しました。

このような状況下、三菱重工業とカナダの航空機大手ボンバルディアは、カナダエア・リージョナル・ジェット(CRJ)事業の承継契約を2020年6月1日にクロージングしたことを発表しました。三菱重工は、CRJを5億5千万ドル(約590億円)で取得し、CRJの保守や顧客サポート、販売、型式証明などを継承することになります。CRJは100席以下の航空機市場で3~4割のシェアを握ります。三菱重工は自社で拠点を整備するより、既存顧客との接点をもつCRJの拠点を活用した方が利点が大きいと判断したのです。

2020年3月期の三菱重工の業績は売上高は4兆413億円と前期比△0.9%とわずかな減収となっています。一方で、事業利益は△295億円と前期の1,867億円から大幅な減益となっています(下図ご参照)。驚くべきことに、国産旅客機「スペースジェット」関連損失の2,633億円が大きく足を引っ張っていることがわかります。「スペースジェット」は度重なる開発の遅れで商用化のめどが立っておらず、三菱航空機は20年3月期に4,646億円の債務超過となりました。

出典:三菱重工決算説明会資料

懸念すべきは三菱重工のキャッシュフローです。営業CF、投資CFとそれらを合算したフリーキャッシュフロー(FCF)の推移をみてましょう。

出典:三菱重工 有価証券報告書からオントラック作成

意外にも過去7年間のFCFはプラスに推移しています。また、過去3年間ではFCFの減少傾向が気になるものの、4,000億円以上の営業CFを稼ぎだしています。現金残高も過去3年間は3,000億円弱を維持しています。「スペースジェット」への投資資金は、他の事業で稼いできたことがわかります。コングロマリットとしての三菱重工の強みと言えるかも知れません。

ところが、風向きが変わってきました。経済産業省が2030年度までに低効率の石炭火力発電所の9割を休廃止する方針を打ち出したのです。三菱重工業など重工大手は、休廃止候補となる設備の多くを供給してきました。 三菱重工にとって、火力設備は貴重な収益源の1つです。2020年3月期決算では、連結事業利益の約6割を発電設備などを扱うパワー部門が稼ぎました。

石炭火力発電に世界的に逆風が吹く中で、三菱重工は低・脱炭素社会の実現に向けて再生可能エネルギーとのコラボレーションなどの施策を打ち出してはいます。しかし、それがどこまで実現可能なのか、また、悲願の国産旅客機「スペースジェット」への経営資源の投入は果たして吉と出るのか凶と出るのか、今後の三菱重工の動向からは目を離せません。

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