先週末、本当に久しぶりに近所のデニーズへ食事に行きました。デニーズに行くと、高校時代に初めてアルバイトをした、あの頃の記憶が鮮明に蘇ってきます。
当時、私はキッチンでの仕事を希望していましたが、店長は「君は接客に向いている」と、半ば強引に私をホール担当に任命しました。今のようにテーブルに注文用の端末などもちろんなく、お客様からのご注文はすべて手書きの伝票でした。メニューには「ジャンバラヤ」なら「JB」、「クラブハウスサンド」なら「CH」といった略語があり、それを瞬時に書き留めなければなりません。この暗号のような略語を覚えるだけでも、最初のうちは一苦労でした。
しかし今、こうして仕事をしていると、私のビジネスにおけるすべての根っこは、あのデニーズでの経験、とりわけ当時の店長の教えにあるような気がしてなりません。
ある日のこと、店長が私にふと、こう尋ねました。「君の給料は、いったい誰が払ってくれていると思う?」高校生だった私は、何の疑いもなく「デニーズです」と答えました。すると店長は、穏やかに首を振り、こう言ったのです。「違うんだ。お客様が、君の給料を払ってくれているんだよ」
当時のデニーズにはドリンクバーはなく、コーヒーのお替わりは無料でした。お客様から「コーヒーのお替わりを」と声をかけられたら、私たちがコーヒーポットを持ってテーブルへ注ぎに行きます。その様子を見ていた店長が、また私に教えてくれました。「お客様に言われてから動くのは、当たり前のことだ。本当のサービスというのは、お客様から声をかけられる前に、そのご要望をこちらが察して差し上げることなんだよ」
それ以来、私はホール全体を見渡し、お客様のカップが空になる少し前に「コーヒーのお替わりはいかがですか?」と声をかけるようになりました。お客様がメニューを閉じたタイミングを見計らってご注文を取りにいくこと。料理を運んだ帰りに、別のテーブルの空いたお皿にも目配りし、決して手ぶらでキッチンに戻らないこと。店長が教えてくれた一つひとつは、単なる作業手順ではありませんでした。それは、「お客様の時間をいかに価値あるものにするか」という視点そのものだったのです。
40年以上も前の教えを、なぜ今でもこれほど鮮明に思い出すのでしょうか。それは、店長の言葉が、ビジネスの最も重要な本質を突いていたからだと思います。
「お客様のニーズを先読みする」ことは、顧客満足度を高め、リピート率を向上させます。これは企業の「売上」に直結します。「手ぶらで戻らない」という効率性の追求は、人時生産性を高め、結果として「利益」を生み出します。
デニーズを運営するセブン&アイ・ホールディングスのフードサービス事業が、厳しい外部環境の中でも堅調に推移しているのも、こうした現場での地道な顧客志向の積み重ねがあるからかもしれません。
結局のところ、どんなに時代が変わり、テクノロジーが進化しても、ビジネスの原点は「お客様にいかに価値を提供し、その対価をいただくか」という、極めてシンプルな原則に集約されます。ビジネスの本質を顧客視点で捉え、その価値を数字で読み解く力は、これからの時代を生き抜くための強力な武器になります。もし、ご自身の仕事の価値をさらに高めたいと感じたら、ぜひ一度、私の講座の扉を叩いてみてください。