パナソニックの決断

2021年4月23日付、パナソニックは、サプライチェーン・ソフトウェアの専門企業、Blue Yonder(ブルーヨンダー)を買収すると発表しました。パナソニックは2019年11月にはすでにBlue Yonderとの合弁会社を国内に設立し、20年春には860億円を投じて出資比率を20%としていました。今回は80%分の株式を追加取得し完全子会社化するものです。

日経新聞によれば、パナソニック自身が2020年10月にBlue Yonderのソフトをパソコン「レッツノート」の販売・業務計画に導入し、グローバルでのサプライチェーン計画の高度化に向けての取り組みを開始しています。ただ、目標とする「在庫ロス10%削減」の達成にはあと数年かかる見通しだといいます。また、パナソニックの顧客へBlue Yonderのソフトの提案を開始したものの、パナソニック経由での契約にはまだ至っていません。

それでもこのタイミングで買収まで踏み込もうとするのは、既存事業の成長戦略を描けない中で、パナソニックに焦りがあるからでしょう。Blue Yonderはグローバル大手企業を中心に3000社に倉庫管理システム、輸配送管理システム、サプライチェーン計画などAIやML(機械学習)を活用したソリューションを提供しています。パナソニックが力をいれるサプライチェーン分野の「現場プロセス」事業とのシナジー効果を見込んでいるのです。


出所:2021年4月23日「Blue Yonderの全株式取得について」説明会資料

松下幸之助氏が1918年に創業したパナソニックは、企業買収を繰り返して事業基盤を固めてきたという歴史があります。ここ30年間では1991年に米国の映画大手MCAを約7800億円で買収。2011年には、三洋電機とパナソニック電工を約8000億円で買収。そして、2016年には米国業務用冷蔵庫大手ハスマンを約1800億円で買収しました。ところがパナソニックの売上高は30年前とほぼ変わっていません。それを反映してか、1989年12月29日には4.7兆円あった時価総額は2021年4月30日現在では3.2兆円と縮小しています。つまり、これら大型買収は結果的にパナソニックの企業価値向上につながることはありませんでした。

パナソニック、Blue Yonderならびに同社の実質的な株主であるBlackstone GroupやNew Mountain Capitalが合意した同社の企業価値は85億米ドル(約9350億円)です。この価値は、DCF法や類似上場企業比較法によってパナソニックが評価した算定レンジに含まれているとしています。EV/EBITDA倍率は21年ベースで33倍、22年ベースで29倍です。同業他社平均がEV/EBITDA倍率は21年44倍、22年41倍ですから極端に割高とは言えないかも知れません。

ただ、気になる点があります。今回の買収資金71億米ドル(約7800億円)の内訳は、80%分の株式追加取得のために56億米ドル(約6160億円)、既存のデット返済15億米ドルです。先述した通り、パナソニックは2020年春、Blue Yonderに20%出資した時は860億円投じました。その時点では、80%相当額は3440億円です。なんと、1年足らずで、Blue Yonderの株主価値が3440億円から6160億円に上昇したことになります。世界的な株高が続くうちにファンドは売り抜けたい。そんな思惑も透けて見えます。

資金調達は手元現預金(約35億米ドル)の活用、およびブリッジローンで調達する予定です。ブリッジローンは格付上、一定の資本性が認められるハイブリッドファイナンス(劣後債等)にて借り換えする予定です。ネット有利子負債/EBITDAなどのレバレッジ指標も本買収後も19年度と比較すると改善の見込みですから心配するほどではありません。

楠見氏がCEOに就任して初めての大型買収です。この買収が果たしてパナソニックの今後の成長の原動力となり得るのか。これからのパナソニックの動向に注目していきたいと思います。

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