政策保有株の「便益」と「資本コスト」

前回のブログ「持ち合い解消進まず」で取り上げたことは、次のようなことでした。


・上場企業による政策保有株の削減スピードが鈍っている
※政策保有株は持ち合い株式ともいう

・政策保有株は、企業にとっては、取引先との関係強化や安定株主づくりにつながる

・一方、株主にとっては、「もの言わぬ株主」が増えることによって経営の規律が緩んだり、資産効率が低下することになるので望ましくない

・金融庁が発表した「投資家と企業の対話ガイドライン」では、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査することを求めており、今後は持ち合い解消への市場からの圧力が高まってくる


前置きが長くなりましたが、今回は、ある建設会社(以下、XYZ建設とします)の財務部の方から質問された「政策保有株の便益やリスクが資本コストに見合っているかをどう検証していくのか」についての私なりの考えをお話したいと思います。

仮にXYZ建設がJR東日本の株式を保有しているとしましょう。その方の質問は具体的には次の通りでした。


弊社(XYZ建設)がJR東日本の株式を保有していることによる「便益」が資本コストと見合っているかを検討する場合、「便益」は、配当金や工事の受注実績だと思います。

これらの「便益」を資本コストと比較する場合は、配当利回りや受注工事の利益率など、「率」表示に変えて資本コストと比較すればいいものなのでしょうか。


企業全体で考えれば、資本コスト(WACC)に対応するのは、投下資本利益率(ROIC)です。企業経営者は、WACC以上のROICを稼ぐことではじめて企業価値を創造できるわけです。

「投資家と企業の対話ガイドライン」が要請していること自体があいまいではありますが、何をもってして「便益」が「資本コスト」に見合っているのかを考えるとき、EVAの考え方が参考になります。

EVAは、企業が一定期間にどれだけの価値を創造したかをみる指標です。言い換えれば、資本コスト以上の税引後営業利益を生み出しているかをみる指標とも言えます。EVAの定義は次の通りです。

EVA
=税引後営業利益-資本コスト額
=税引後営業利益-投下資本×資本コスト(率)

EVAの定義式に資本コスト額とあります。資本コスト額は、上記にある通り、投下資本に資本コスト(率)を掛けることで求めることができます。

1年間という期間で区切って、政策保有株の「便益」が「資本コスト」に見合っているいるかを判断する場合にはEVAのように金額で比較した方が分かりやすいと思います。

それでは、JR東日本の株式を保有することの「便益」はどう考えればいいのでしょうか。「便益」は配当金や受注によって増えるキャッシュ(1年間の受注金額-1年間の関連コスト)だけではなく、次のように過去1年間の株価の評価差損益も入れた方がいいでしょう。

「便益」=配当金+受注によって増えるキャッシュ+(評価時点のJR東日本株式の株価-1年前のJR東日本株式の株価)×保有株式数

一方、資本コスト額は、投下資本をJR東日本株式の1年前の株価と考えれば次にようになるでしょう。

資本コスト額=JR東日本の株価(1年前の時点)×保有株式数×資本コスト(率)

ここで重要なことは、受注によって増えるキャッシュ(以下、受注キャッシュ)は、With-Withoutの原則で考えなくてはいけません。つまり、JR東日本の株式を持つ場合(With)の受注キャッシュとそうでない場合(Without)の受注キャッシュの差額、増し分で考えるということです。

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