誉めて育てるか、叱って育てるか

子供は褒めて育てるのがいいのか、叱って育てるのがいいのか。子供を持つ親ならば、少なからず悩んだ経験があると思います。

感覚としては、どちらが正しいのか分からないかもしれません。ただ、学問的には、ハト、ネズミ、ヒトその他の動物実験から、「失敗を叱るよりも、能力向上を誉める方が効果的である」ということが確かめられています。

心理学者で、2002年のノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン教授が、イスラエル空軍でベテランの訓練教官たちに訓練効果を高めるために心理学を教えたときのエピソードに面白いものがあります。

カーネマン教授は、ハトの行動に関する話を題材に先ほどの「失敗を叱るよりも、能力向上を誉める方が効果的である」という原則について話をしたところ、ベテラン教官のうちの一人がこう言ったというのです。

「確かにハトではそうかも知れないが、訓練生に関していえば、そんなことはない。訓練生の飛行が大変良かったので、褒めてやると、ほぼ確実に次の訓練では下手になります。反対に下手な飛行を叱りつけると次の訓練ではほぼ確実に改善するんです。」

カーネマン教授は、そのベテラン教官はある意味で正しく、ある意味で間違っているといいます。

教官が訓練生の操縦を誉めたときには下手くそになり、叱るとうまくなるというのは正しい。

ただ、誉めると下手になり、叱るとうまくなるという推論は完全に間違っているというのです。

このベテラン教官が観察したのは、「平均への回帰」として知られる現象です。

人は誰でもその人の平均の状態に戻るということです。言い換えれば、ある日特別にうまく出来たとしても、次に日には平均の状態に戻るということです。

訓練生は、ほとんど場合、自分の平均レベルの飛行を行うでしょう。時にはそれよりも上手く飛ぶこともあれば、下手に飛ぶことあります。

たまたま、上手く飛べたときに誉めれば、次の時には平均に戻る可能性が高くなります。一方、たまたま下手なときに叱れば、次の時には、これまた平均に戻る可能性が高くなるというわけです。

ところが、教官は、訓練生が誉めれば下手になり、叱れば上手くなるのを実際に見るわけですから、「誉めるのはダメで叱るのがいい」と考えるのも無理はありません。

ところが、この「平均への回帰」というのは、数学的な事実なのです。

このように平均回帰で説明できるものに、的外れな因果関係をこしらえがちなのが私たちです。

そのひとつに、経営者が自伝を書くとその企業の業績が悪くなるというジンクスがあります。この理由として、経営者が自信過剰になるからだとか、まことしやかに説明されることがありますが理由はもっと単純なものでしょう。

経営者が自伝を書くタイミングというは、その経営者が目を見張るような活躍をし、企業の業績が伸びている時でしょう。そのようなことは長く続かないということなのです。

それでは問題です。

あなたはコンビニエンスストアを5店舗経営しています。各店舗の面積や品揃えなどは、ほぼ同じ。立地条件などで売上高は異なります。

あなたは、来年度の各店舗の売上高を予測する必要があります。専門のコンサルタントによれば、5店舗の総売上高は前年比10%増加すると言っています。あなただったら、どのように予測するでしょうか。

全体売上高が10%増加するのだから、各店舗一律10%増加させるというのが間違いだと言うことがわかるはずです。

「平均への回帰」を考慮すれば、昨年の売上が好調だった店舗は10%より少なくするか、売上高そのものを減少させる必要があるかも知れません。一方、いまひとつ売上がぱっとしなかった店舗は10%よりも多くする必要があるでしょう。

ところが多くの人が各店舗一律10%増加させることでいいと考えるでしょう。それほど、この「平均への回帰」は知られていないわけですが、私たちは頭の片隅をおいておく必要があるでしょう。

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