金融庁は「投資家と企業の対話ガイドライン」の中で、持ち合い株式の保有目的のみならず、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査することを求めています。上場企業はこの要請に応えていく必要があるのです。
つまり、従来の「取引関係の維持」などと言った定性的な説明ではなく、定量的な説明が求められることになったのです。2019年3月期決算の企業の有価証券報告書が6月末に出そろいました。企業の持ち合い株式(政策保有株)の情報開示はどれくらい進んだのでしょうか。
2019年8月6日付日経新聞の記事によれば、金融庁関係者は上場企業の開示姿勢に対してこうコメントしています。「期待外れといわざるをえない」。その一方で、政策保有株の保有効果をできる限り詳しく説明しようとしている企業が紹介されていました。その企業とは、川崎汽船と大和証券グループ本社です。
川崎汽船の有価証券報告書には、こう書かれています。
当社では取締役会において、独立した客観的な立場から少なくとも年1回、政策保有目的の上場株式について、個別にその保有目的や中長期的な経済合理性等を具体的に精査して保有の適否を検証しています。
なお、経済合理性の検証の際には、{配当実績+(期末時価―期初時価)}÷期初時価の利回り数値が10%(当社中期経営計画の目標ROEである10%を比較対象とした)を下回る場合には、売却を検討することとしています。
その上で、これらの基準に抵触する銘柄については、毎年取締役会で売却の是非に関する審議を行い、売却する銘柄を決定します。見直しの結果、当事業年度末における政策保有目的の上場株式銘柄数は、当事業年度に3銘柄の株式を処分した結果として、10銘柄となっています。
(太字は筆者)
川崎汽船は定量的な基準は誰もが計算できるものですから、非常に踏み込んだ記載をしていると言えます。実際のところ、川崎汽船は前期に基準を満たさなかったトヨタ自動車、マツダ、飯野海運の3銘柄を売却しています。
また、大和証券グループ本社は個別銘柄ごとに定量面と定性面で基準を満たしているかを開示しています。ただ、「定量的な保有効果については記載が困難であります」としており、具体的な経済合理性の検証についてはわかりません。
いずれにしても、こうした開示に積極的な企業に刺激を受け、多くの上場企業が持ち合い株式解消に向かっていって欲しいと思います。