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買収効果はどう測る(1/2)

M&Aを実施する際、買い手企業は、その買収効果をあらかじめシミュレーションする必要があります。買収効果はどのように測ればいいのでしょうか。株式アナリストは1株当たりの当期純利益(EPS: Earnings Per Share)の増減予測をレポートに記載したりします。ただし、残念ながら、EPSの増減は意味ありません。EPSが増加するからと言って、買収が成功するとは限らないのです。

具体的にみてみましょう。買い手企業のバイ社は、時価総額750百万円のセル社を1,000百万円で買収する案件を検討しています。バイ社の時価総額は、現在2,500百万円で、当期純利益は100百万円です。単純化のために買収によるシナジーはゼロとします。買収資金1,000百万円は、支払金利5%で調達するとしましょう。この場合、企業価値を毀損します。なぜなら、シナジー効果ゼロにもかかわらず、買収プレミアムを250百万円(=セル社買取価格1,000百万円-時価総額750百万円)を支払っているからです。このとき、翌期の当期純利益は120百万円、EPSは2.4円と増加することがわかります。これはセル社の当期純利益50百万円が税引後支払利息30百万円を上回るからです。
出所:オントラック作成

次にセル社を株式で買収したとしましょう。バイ社の株価が案件発表後も50円で変化しないとすると、1,000百万円の買収価格のためには、バイ社は20百万株の株式を発行し、セル社の株主に渡す必要があります。買収後、統合会社の株式数は70百万株、当期純利益は150百万円になります。新会社のEPSは2.14円に増加しています。ただし、統合会社のEPSは、価値創造によるものではなく、単なる計算結果にすぎないのです。

それでも、株式市場や経営者はEPSに注目していると、あなたは思うかも知れません。そうでなければ、株式アナリストは、EPSの増減をシミュレーションしないはずだと。マッキンゼーによれば、1999~2000年に米国で発表された30億ドル超の案件117件を調査した結果、EPSの増減では、市場は反応しないことがわかっているのです。つまり、株式市場は、価値創造とEPSの増加は異なることを理解しているということです。では、買収効果を測るにはどうすべきなのか。次回のブログに続きます。

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