2025年7月15日、Anthropic社が発表した「Claude for Financial Services Keynote」は、金融業界におけるAI活用の現実と未来を鮮やかに提示するものでした。このブログでは、AIが金融アナリストの働き方にどんな変化をもたらすのか、そして、私たち、ビジネスパーソンがどのようなスキルを身につけるべきかについて考えてみたいと思います。
Claudeが示した、金融アナリスト業務の再定義
現代の金融業界は、情報の量・スピード・複雑さすべてにおいて、もはや人間の知力だけでは処理しきれない領域に突入しています。Anthropicの収益責任者ケイト・ジェンセン氏も「AIはすべての業界を変えているが、金融ほどその影響が大きい業界はない」と語っています。
このような背景の中、Anthropicは「Claude for Financial Services 」を発表しました。これは、金融のプロフェッショナルがAIと協力する方法を根本から変える、業界で初めての統合されたAIシステムです。このAIがどれほど強力であるかを示す最も衝撃的な事例が、デモンストレーションで示されたSarahのケースです。
Sarahはヘッジファンドのアナリストで、ポートフォリオマネージャーから緊急の質問を受けます。「Velocity Athletic社の決算はひどかったのに株価が17%も上昇している。この上昇は新しい戦略で正当化されるのか、それとも売り抜けるべきか?市場が閉まる前に答えが必要だ。」
通常なら、このような分析には4~5時間かかるところ、Claudeはこれを30分未満で完了させました。Claudeは、S&P GlobalやMorningstarなどの外部データと、社内資料を横断的に検索、分析し、株価チャートや競合比較表を作成し、さらにはDCFモデルを自動で生成してしまったのです。
このDCFモデルは、Velocity社の適正株価を54ドルと示唆し、現在の71ドルが過大評価である可能性を指摘したのです。最終的には、自社テンプレートに基づいたプロフェッショナルな投資メモを数秒で作成しました。
金融機関だけでなく、事業会社にも広がるAIの恩恵
こうしたAIの進化は、投資銀行やファンドだけの話ではありません。むしろ、M\&A戦略や新規事業の評価など、企業の経営判断においてファイナンスが求められる事業会社の方こそ、大きなメリットを享受できる領域だと思います。
企業価値評価においてAIを活用すれば、より精緻な分析と迅速な判断が可能になります。これは、単なる業務の効率化ではなく、企業の意思決定そのものの質を高めるための強力な武器となります。
新しい時代に求められる3つのスキル
では、AI時代に私たちはどんなスキルを磨くべきなのでしょうか?Anthropicの講演では、以下の3つが特に強調されていました。
1つ目は、AIを「仮想の協力者」として捉えるマインドセットです。AIに質問を投げかけるだけでなく、対話可能なパートナーとして扱うことで初めて力を発揮します。
2つ目は、「質問力」です。プロンプト(指示)の質がアウトプットの質を決めます。D.E.ShawのMichael氏も、スタッフには「自分の仕事を簡単に説明し、AIに“どこから始めるべきか”を聞いてみるべき」とアドバイスしています。
そして3つ目は、AIの出力を鵜呑みにせず、最終判断を下す能力です。AIがDCFモデルを数秒で作成したとしても、その前提条件が適切かをチェックし、自らの知識と経験に基づいて意思決定に繋げることが、これまで以上に不可欠となります。
AIを使いこなす人が、未来のビジネスをリードする
AIは私たちの仕事を奪うのではありません。AIを使いこなせば、私たちの仕事をより良くするのです。
私の提供するファイナンス基礎講座や財務モデリング基礎講座では、まさにこの「AIを使いこなす」ための実践的な知識、スキルを磨きます。例えば、AIが出力したDCFモデルのどこをチェックし、どう修正すべきか、わからずしてAIは使いこなせないのです。講座のご参加をお待ちしてます。