CAPM(資本資産評価モデル、Capital Asset Pricing Model)とは、株主資本コストを算出するための理論の一つです。キャップエムと呼ぶのが一般的です。株主はCAPM理論で算定される株主資本コスト以上のリターンを要求することになります。
ファイナンスの重要な概念に「ハイリスク・ハイリターン」というものがあります。その意味するところは、「リスクが高いものにお金を投資する場合は、高いリターンを要求すべき」ということです。上図の横軸はリスク、縦軸は要求収益率です。国債に投資する場合、すなわち、リスクフリー(=リスクなし)の場合に、投資家が要求する収益率をリスクフリーレート(無リスク金利)といいます。
ある会社(図ではX社)の社債に投資する場合、国債に比べるとリスクが少し高くなります。国と違って、会社ですから、実際に利息がもらえるか、もらえないかのバラツキが出てくるということです。「ハイリスク・ハイリターン」の原則からも、国債に投資するよりも、投資家の要求する収益率が高まります。このリスクフリーレート以上に投資家が求める部分をリスクプレミアムと呼びます。言い換えれば、投資家がリスクをとることの見返り分と考えられます。
それでは、同じX社の株式に投資するとなるとどうでしょう。同じ会社でも、社債と株式に投資するのとではリスクが違ってきます。社債の場合は、利率があらかじめ契約で決まっています。ところが、株式投資の場合、企業の業績が悪ければ、配当が行われなかったり、株価が下がったりします。つまり、収益率が確約されていないわけです。したがって、株式投資の方が社債投資よりも、リスクが高いと言えます。その結果、リスクをとることに対する報酬ともいえるリスクプレミアムは社債投資よりも高くなるわけです。
それでは、横軸のリスクというのは具体的に何のバラツキをとればいいのでしょうか。CAPM理論では株式市場全体の変動に対する株価のバラツキをリスクと考えています。株式市場全体の変動は日経平均やTOPIXなどの株価指数から数値化できます。また、これら株式市場全体をあらわす株価指数をマーケット・ポートフォリオといいます。
企業の株式は、マーケット・ポートフォリオの動きに影響をうけます。多くの株式は、マーケット・ポートフォリオが上昇すれば、上昇するし、下落すれば、下落します。
マーケット・ポートフォリオの値動きに対する個別株式の相対的な値動きを表したものがβ(ベータ)と呼ばれるものです。
マーケット・ポートフォリオと全く同じ値動きをする株式のベータは1となります。
例えば、TOPIXが±10%値動きする場合に、±20%の値動きをしている株式のベータは2になります。また、±5%の値動きをしている株式のベータは0.5となります。
先ほどのハイリスク・ハイリターンを表す図の横軸は単純にリスクとしていましたが、横軸はβになります。β=1というのは、マーケット・ポートフォリオの値動きと同じ場合です。言い方を換えると、マーケット・ポートフォリオに投資をするということと同じです。
マーケット・ポートフォリオに投資する場合のリスクプレミアムを特にマーケット・リスクプレミアムと呼びます。
そして、先ほども出てきましたリスクフリーレートは、長期国債10年物の利回りを使うことが一般的ですが、私はざっくりと2%で仮置きしています。また、マーケット・リスクプレミアムは5%というふうにざっくり置いています。マーケット・リスクプレミアムは先述したように、マーケット・ポートフォリオの利回りと長期国債10年物の利回りの差です。マーケット・ポートフォリオの利回りは、過去数年のTOPIXの平均利回りを用います。米国であれば、S&P500などを用いることになります。マーケット・リスクプレミアムは、日本では、5%~5.5%に設定することが一般的です。
CAPM理論によると、下記の式で株主資本コストが求められます。
株主資本コスト
=リスクフリーレート(2%)+ベータ×マーケット・リスクプレミアム(5%)
この式のベータ×マーケット・リスクプレミアムの部分がリスクプレミアムです。βが2倍であれば、当該株式のリスクプレミアムは、マーケット・リスクプレミアムの2倍となり、βが0.5であれば、マーケット・リスクプレミアムの半分がリスクプレミアムになります。
このベータは、回帰分析の手法を用いて、自分で計算することもできますが、ロイターのサイト(http://jp.reuters.com/investing/)で簡単に調べることができます。