そもそも、企業価値とは何かについて触れておきましょう。
企業価値は事業価値と非事業資産の価値に分けられます(下図左側ご参照)。事業価値とは、その企業が将来生み出すであろうFCF(フリーキャッシュフロー)の現在価値です。
非事業資産とは、FCFの増加に直接寄与していない資産のことを言います。たとえば、現預金、遊休地、純粋に投資目的である有価証券などが該当します。
現預金が非事業資産なのかという議論がありますが、これについては、また別の機会にお話したいと思います。
一方で、企業価値は誰に帰属するものかという観点で言えば、債権者価値(有利子負債)と株主価値に分けられます(上図右側ご参照)。
さて、本題のEV(=Enterprise Value)です。EVは一般的に次のように定義されます。
EV=株式時価総額(株価×発行済株式数)+ネット・デット(純有利子負債)
ネットデット(純有利子負債)とは下図の通り、有利子負債から非事業資産価値を引いたものをさします。
それでは、EVは企業価値ではないとしたら、一体なんなのでしょうか。仮に株式時価総額と株主価値が同じであれば、下図の通り、EVは事業価値になります。つまり、EVとは、マーケット側から見たその企業の事業価値なのです。
たとえば、株式時価総額とネット・デット(純有利子負債)から計算されたEVが100億円の企業があったとします。この場合、マーケットは、この企業の事業価値を100億円と考えていることになります。
また、この企業を自分のものにするのに100億円必要だとも言えます。株式時価総額こそが企業を買収するのに必要な金額なのではないかと思う人もいるかも知れません。ただ、それだけでは完全にあなたのものになったわけではありません。
債権者の持ち分である有利子負債があるからです。あなたは有利子負債を全額返済することにしました。あなたが支払った金額の総額はいくらでしょうか。
そうです。株式時価総額にネット・デットを加えたEV100億円ということになるのです。
EV=企業価値と考えている人が多いので注意して下さい。