GAFAMに代表されるテック株がけん引し、米国の主要株価指数は最高値圏にあります。GAFAMの存在感は目を引きます。時価総額の合計は1000兆円を超え、わずか5社で東京市場や上海市場全体の時価総額を大きく上回ります(それぞれ735兆円と836兆円)。
これらのテック大手が主導し、米企業の自社株買いが再び勢いを増しています。日経新聞によれば、金額が最も大きいアップルの2021年の金額は過去最大の約800億ドル(約8兆8000億円)となる見込みです。これは2019年の記録(788億ドル)を上回る規模です。
自社株買いは株主にとって常に好ましいものでしょうか。結論から言えば、そうではありません。自社株の価格(株価)と価値との関係抜きにしては判断はできません。つまり、自社株も(自社が考える)価値よりも高い株価で行われた場合、株主(=自社株買いに応じない株主)の価値を毀損することになるのです。株価というのは、短期的には企業の価値とは関係ない要因で大きく下げることがあります。そんな時にこそ、自社株買いをして欲しいものです。
実は、自社株買いは「自社を部分的に買収すること」と考えることもできます。実際の企業買収では売り手と買い手では情報の非対称性が存在します。言い換えれば、売り手の方が買い手よりも会社に関する情報を多く持っているということです。どれほど、買い手が事前にデューデリジェンスしようと売り手以上の情報を入手するのは困難です。だからこそ、買収前に描いたシナジーの実現も絵に描いた餅となり、結果的に失敗に終わることが多いのです。
一方、自社を部分的に買収する場合はどうでしょうか。インサイダー情報に基づき、自社の価値を算出し、適切なタイミングで適切な価格で購入することができるのです。そのためには、定期的にインハウスバリュエーション(In-house Valuation)する仕組みがないとダメなことはもちろんです。自社株買いを実施している日本企業で、このような仕組みがある企業はどれくらいあるのでしょうか。資本コストを算出すらしていない上場企業が38%もある現実を考えると首をかしげたくなります。