企業価値評価の方法は、一般的にインカムアプローチ、マーケットアプローチ、コストアプローチの3つに分類されます。各アプローチには複数の算定方法があります。実務でよく使われるのは、インカムアプローチのDCF法(Discounted Cash Flow法)、そしてマーケットアプローチの市場株価法と類似会社比較法です。
上図の通り、各アプローチともに長所と短所があり、評価の目的やデータの入手可能性によって評価方法を使い分けます。今回、取り上げるのはインカムアプローチのDCF法です。この方法の長所としては、企業の将来の収益力や成長力、企業固有の特徴を反映できることがあります。これに対して、短所は、事業計画(FCFの予測)や割引率など前提条件によって価値が変動することや継続価値が企業価値の大変を占めることがあります。
今回は本田技研工業(以下ホンダ)の理論株価をDCF法で算定してみたいと思います。FCFはまずは2021年3月期を基準として過去3年間の平均FCFを発射台にしたいと思います。ただし、FCFの定義は「営業CF+有形固定資産取得による支出」とします。ここでは5年間のFCFの成長率を予測します。成長率の予測はとても難しいものです。ここはあまり神経質にならず、常識を働かせて予測してみましょう。ひとまず、ホンダのFCF成長率を12%とおきます。ただ、5年間の成長率を15%以上に設定する場合はその根拠を自分なりに考える必要があるでしょう。
出所:オントラック分析
割引率は評価対象会社の資本コストを推定します。自分がこの企業に投資するとしたら、要求したいと思う収益率を入れてもいいでしょう。これを自分勝手割引率といいます。よくわからない場合は割引率10%にしておけばいいでしょう。十分保守的な数字だと思います。
最後に継続価値の算定です。このモデルでは6年目以降のフリーキャッシュフローは一定成長で伸びていくと考えています。この期間を「一定成長期間」と呼び、この期間のフリーキャッシュフローの現在価値の合計を継続価値といいます。一定成長期間のフリーキャッシュフローの現在価値は以下の成長型永久債の現在価値(PV)の公式を使いします。
悩むのは、永久成長率です。一般的には0%から2%の間とします。日本国内のM&A案件では永久成長率を0%にすると明言している専門家もいます。3%を超える成長率を設定するのは考えものです。なぜなら、その企業が日本の経済成長率を凌駕するほどに成長することを意味するからです。それも永久にです。保守的に考えるのであれば、0%にしておきましょう。
それではお待たせしました。リバースDCF法とは理論株価が現在の株価になるように前提条件(FCF成長率)を逆算するものです。具体的にやってみましょう。ホンダの現在の株価は3382円(2020年9月6日)です。しかし、FCF成長率を12%、割引率を10%とした場合のホンダの理論株価は2506円(Excel図セルE31)になりました。
ここで、Excelのゴールシーク機能を使って、ホンダの現在の株価3382円になるようなFCF成長率を求めてみましょう。すると、15.9%と計算できます。ここであなたが考えなくていけないのは、今後5年間、約16%のFCF成長率をホンダが達成することが現実的であるかです。もしかしたら、株式市場が間違っているかもしれません。参考までにホンダの過去3年間の平均FCF成長率は19%です。あとはあなた次第です。