2024年5月18日付の日経新聞によると、東証プライム上場企業の約7割にあたる約1100社が持ち合い株の削減方針を示しています。この動きは、リターンが見込めない持ち合い株を売却し、資本効率を高めるためのものです。今回は、この持ち合い株式の削減が企業統治(ガバナンス)改善、ひいては企業価値向上にどのように寄与するのかについて考えてみたいと思います。
サイレントシェアホルダーとは、企業の業績や株価に関わらず、経営に対して積極的に意見を述べない株主のことを指します。これにより、経営陣は市場の圧力を受けにくくなり、ガバナンスの欠如を招くリスクがあります。ガバナンスとは、「経営者の暴走と逃走を防ぐ仕組み」のことです。日本の企業は長らく、相互に株式を持ち合うことでサイレントシェアホルダーを形成し、市場の圧力を和らげてきました。しかし、この状態が企業のガバナンスの欠如やパフォーマンス低下やを引き起こすとして批判が強まっているようです。
私が日産自動車に在籍していた当時、最優先事項は資産売却による有利子負債の削減でした。しかし、営業担当役員は持ち合い株式の売却が販売台数の減少につながることを懸念し、当時のCFOに対して反対の声を上げました。その際、CFOは「持ち合いがなければ購入してくれないようではいけない。持ち合いがなくても購入したくなるような車を作ろうではないか」と言いました。このように、社内には持ち合い株式売却に対する抵抗が存在していました。このような状況を見ると、時代の変化を強く実感します。
持ち合い株の削減方針を示す企業が増える中で、株主が期待するのは、売却によって得たキャッシュを効果的に事業に投資することです。単に持ち合い株を売却して終わりではなく、その資金を使って新たな未来投資を行うことが求められています。具体的には、研究開発、マーケティング、人的資本投資、設備投資、IT投資などに充てることで、企業価値を向上させることが期待されています。
実際に、PBR(株価純資産倍率)やROE(自己資本利益率)が低い企業ほど政策保有株が多いというデータもあります。持ち合い株の削減は、日本企業のガバナンスを強化し、資本効率を向上させる重要なステップです。
サイレントシェアホルダーの存在がガバナンスの障害となる中で、株主としては、売却したキャッシュを事業に再投資し、企業価値の向上を目指してほしいと期待しています。株主は自分でできる株式投資ではなく、事業経営のプロが取り組むべき事業領域にフォーカスして欲しいのです。持ち合い株の削減が加速する中で、企業がどのようにこの資金を活用し、成長を実現するかが注目されます。
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