世界有数の投資家ウォーレン・バフェットは2020年8月に初めての日本株投資として商社5社(伊藤忠商事、丸紅、三菱商事、三井物産、住友商事)の株式を5%取得したことを公表しました。その後2023年4月には保有比率をそれぞれ7.4%に、さらに2023年6月には、平均で8.5%と引き上げています。
長らく、バフェットの投資理由が明らかになっていませんでしたが、2024年2月に公開されたバークシャー・ハサウェイの「株主への手紙」の中で説明しています。今回は該当部分をご紹介したいと思います。
バークシャーは日本の大手企業5社(伊藤忠商事、丸紅、三菱商事、三井物産、住友商事)のパッシブ長期保有を続けています。これらの企業は、高度に分散化した事業展開を行っており、バークシャー自身の経営方法とやや似ています。昨年、グレッグ・エイベルと私は東京を訪れ、経営陣と話し合った結果、5社すべての持ち株を増やしました。
バークシャーは現在、これら5社の株をそれぞれ約9%ずつ保有しています。(細かい点ですが、日本企業は発行済株式数の計算方法が米国とは異なります)。また、バークシャーは各社に対し、私たちの持ち株比率が9.9%を超えないようにすることを約束しています。5社合計の取得コストは1.6兆円、年末の時価総額は2.9兆円です。しかし、近年の円安により、年末のドル建て含み益は61%、80億ドルでした。
グレッグも私も、主要通貨の市場価格を予測できるとは思っていません。また、そのような能力を持つ人を雇えるとも思っていません。そのため、バークシャーは日本のポジションのほとんどを1兆3,000億円の債券で調達しています。この債券は日本で非常に評判がよく、バークシャーの円建て債券残高は他のどのアメリカ企業よりも多いと考えています。この円安により、バークシャーは年末に19億ドルの利益を得ました。この金額はGAAPの規則に従い、2020年から2023年にかけて定期的に利益として認識されます。
伊藤忠商事、丸紅、三菱商事、三井物産、住友商事の5社は、重要ないくつかの点で、米国企業の一般的な慣行よりもはるかに優れた株主にとってフレンドリーな政策をとっています。私たちが投資をしてから、各社は割安な水準で自社株買いを行い、発行済株式数を減少させています。
その一方で、5社すべての役員報酬は、米国企業の一般的な水準よりもはるかに控えめです。また、5社はそれぞれ利益の約3分の1しか配当に回していません。5社が保有する巨額の資金は、多くの事業を立ち上げるためと自社株買いのために使われていますが、自社株買いに充当する割合は低いです。バークシャーと同様、5社は株式の発行に消極的です。
バークシャーにとってのもう一つの利点は、この投資によって、経営が良く評判の高い大企業5社と世界中で提携する機会が得られる可能性があることです。彼らの関心は私たちよりもはるかに広範です。また、5社のCEOたちにとっても、そのようなパートナーシップのために、バークシャーが規模の大小にかかわらず即座に利用できる莫大な流動資源を常に保有しているという安心感があります。
私たちの日本での買い付けは2019年7月4日に始まりました。バークシャーの現在の規模を考えると、公開市場での購入を通じてポジションを構築するには、多くの忍耐と「割安な」価格が長期間続くことが必要です。このプロセスは戦艦を回すようなものです。これは、バークシャーの初期には直面しなかった重要な不利な点です。(オントラック訳)
ウォーレン・バフェットの商社への投資は、バークシャー・ハサウェイの投資哲学と合致し、長期的な成長と安定を見据えた戦略的なものです。これらの商社は多岐にわたる事業を展開し、株主に対するフレンドリーな政策を採用しているとバフェットは述べています。
バフェットの手紙からもわかるように、商社の控えめな役員報酬とキャピタル・アロケーション(資本配分)に言及しています。配当や自社株買いなどの株主還元よりも、多額の資金を事業開発に投入していることを評価していることがうかがえます。さらに、商社の多岐にわたる事業の分散化と世界に張り巡らされたネットワークを活用して、バークシャーと共に事業を展開できる点も、投資理由として挙げられています。こうしたバフェットの投資理由は、私たちにとっても学ぶべき点が多いと思います。今後の動向に注目していきたいと思います。