社長ブログ社長ブログ

NVIDIAの株価はなぜ乱高下するのか?バリュエーションにおける「リスク」の居場所

最近の株式市場を見ていると、やはり半導体大手のエヌビディア(NVIDIA)の動きから目が離せません。

先日発表された直近の決算でも、売上高は前年同期比で驚異的な伸びを見せ、営業利益率も極めて高い水準を維持しています。数字だけを見れば「買い」一択に見えるかもしれませんが、株価は時折、激しく乱高下します。

投資家の心理としては、「AIブームは本物か?」「競合他社の追い上げは?」「地政学リスクは?」といった不安が常に頭をよぎるからです。

さて、ここでファイナンスの視点を入れてみましょう。私たちが企業の価値を算定(バリュエーション)する際、こういった「不安」を計算式のどこに反映させるべきか、という非常に深い論点があります。

先日、ある受講生の方からこんな鋭い質問をいただきました。

「事業のリスクは、将来のフリーキャッシュフロー(分子)を減らすことで反映させるべきか、それとも割引率(分母)を上げることで反映させるべきか?」

これは、実務家でも迷うことがある難問です。今回は、この「リスクの反映する場所」について、考えてみましょう。

まず結論から言うと、ファイナンス理論の原則では「役割分担」が明確に決まっています。

分子(フリーキャッシュフロー)には、成功も失敗も含めた「期待値」を入れます。
分母(割引率)には、市場全体と連動する「市場リスク」の対価を入れます。

少し難しく聞こえるかもしれません。NVIDIAを例に説明します。

まず「分子」の役割です。
ここでは、あらゆる可能性をシミュレーションします。「AI需要が爆発的に続くシナリオ」「競合にシェアを奪われるシナリオ」「地政学リスクで供給が止まるシナリオ」。

これらすべてのケースを想定し、それぞれの発生確率を考慮して、平均的なキャッシュフロー(期待値)を算出します。つまり、個別の事業リスクは、ここで徹底的にシナリオ分析をして織り込むのが正解です。

次に「分母」の役割です。
ここには「割引率」が入ります。これは投資家が「この不確実な資産を持つ代わりに、最低限これくらいのリターンは欲しい」と要求する水準です。理論上、ここに入れるべきは「市場リスクに対する感応度(ベータ)」です。つまり、市場全体が動いた時に、この株がどれくらい連動して動くか、という性質に対する対価です。

ここでやりがちな最大の間違いが「リスクの二重計上(ダブルカウント)」です。

例えば、「将来が不安だから」といって、分子の売上予測を極端に保守的(低く)に見積もり、さらに「IT株は怖いから」といって分母の割引率を極端に高く設定してしまう。

これでは、同じリスクを分子と分母の両方で引いてしまい、企業価値を不当に低く見積もることになります。

もしあなたが財務モデルを作る際、無意識に「保守的な計画」と「高めの割引率」をセットにしていたら要注意です。それは、あまりに臆病になりすぎているサインかもしれません。

分子では、感情をいったん押し殺し「あり得る未来の平均」を描く。
分母では、市場がその企業のリスクにどれだけの「値札」をつけているかを冷静に計算する。

この切り分けができるようになると、ニュースの見え方が変わってきます。株価が急落した時、それが「業績見通し(分子)の悪化」によるものなのか、それとも「市場全体の恐怖感(分母)の高まり」によるものなのかを冷静に分析できるからです。

ファイナンスは数式を扱う学問ですが、その本質は、不確実な未来をどう論理的に整理するかという「思考の整理術」でもあります。

こうした企業価値評価の奥深い世界や、実際にエクセルを使って企業価値を算出するスキルを身につけたい方は、ぜひ私の「ファイナンス基礎講座」や「財務モデリング基礎講座」を覗いてみてください。

「なんとなく怖い」と思っていたリスクの正体が、数字を通じてクリアに見えてくるはずです。

動画配信開始