企業価値とは、ファイナンスでは資金提供者である債権者と株主にとっての価値を意味します。
債権者の価値と有利子負債(=借入)とは同じです。有利子負債に価値があるというのは、妙な感じがしますが、金融機関などの債権者の立場で考えれば、りっぱな資産となります。企業価値から、この債権者にとっての価値である有利子負債を差し引くと株主にとっての価値になります。企業価値を高めるというのは、債権者、そして株主にとっての価値を高めることなのです。さらに、企業価値向上とは株主価値向上と同義と言えます。
だからといって、株主だけを向いた経営を目指すわけでは決してありません。
次の図は、売上から最終利益である当期利益までどのように企業を取り巻く関係者に収益が分配されるかを表したものです。
売上の配分においては、株主は最も弱い立場であるといえます。顧客に対する価値提供の見返りに企業は売上を受け取ります。そこからの配分を最初に受け取るのが仕入先・取引先です。そのあとが従業員であり取引先です。そして金融機関などの債権者が受け取り、国・地方自治体が受け取り、そして最後に残ったキャッシュを株主が受け取るのです。短期的に考えれば、売上は変わりません。誰かが多く受け取れば、その分だけ誰かの配分は減るわけです。株主が受け取る配分を増やそうとして、社長に要求して、仕入先、取引先、従業員が受け取る配分を減らさせたとしたら、どうなるでしょう。企業への価値提供に見合った十分な配分を受け取ることができなければ、仕入先、取引先、従業員はその企業から離れていきます。その結果、売上自体が減少し、株主が受け取る配分が減少することになります。長期的な視野に立つことのできる真っ当な株主であれば、そんな馬鹿なことをするはずはありません。これは理想論と考えるになる方もいるかもしれません。ただ、ここで強調しておきたいことは、株主価値を高めるという経営が株主だけがハッピーになる世界を目指しているわけではないということです。