いま、目の前にある100万円と遠い将来の100万円では、価値が違うということは直感的に理解できると思います。500年後に1億円もらえるとしても、今の私たちにとっては、1億円もの価値はありません。むしろ、いますぐ、100万円もらった方がいいという人もいるかも知れません。このように現在に生きている私たちにとって、お金の価値は、未来のお金になればなるほど小さくなっていきます。
具体的に考えてみましょう。年利5%とすると、今日の100万円は、1年後には、105万円になっています。1年後でくらべてみると今日の100万円の方が来年の100万円よりも5万円価値が大きいことになります。この差をお金の時間価値といいます。キャッシュを受け取る場合は、できるだけ早く受け取ったほうがその分、利息を稼げるからお得なのです。一方で、キャッシュを支払う場合は、できるだけ遅くした方が有利というわけです。
このようにお金には時間価値があることから、時間軸が異なるキャッシュを比較する場合は、時間の価値を調整する必要があります。将来のキャッシュが、現在のいくらに相当するかを計算するためには、利率で割り算することで計算することができます。先ほどの例でいえば、いまの100万円に1.05(=1+5%)をかけて、1年後の価値は、105万円と計算することができました。このとき、105万円は、将来価値といいます。1年後の105万円の現在の価値を求めるのは、この計算の逆を行なうわけです。つまり、105万円を1.05(=1+5%)で割り算することによって、現在価値100万円と計算するのです。
この計算プロセスを「1年後のキャッシュを割引率5%で現在の価値に割り引く」といいます。このように、将来価値を現在価値に換算するときに使う利率を割引率といいます。
一方、現在価値から将来価値を求めるときは、期待(要求)収益率という言い方をします。混乱しがちですが、将来価値と現在価値を換算する利率の表現の仕方が違うだけで、期待(要求)収益率と割引率は、表裏一体の関係になっています。
この将来価値、現在価値、割引率、期待(要求)収益率はファイナンスでも、もっとも重要な概念です。
以上をまとめます。現在価値に(1 + 要求収益率)をかけると、1年後の将来価値になります。1年後の将来価値を(1 + 割引率)で割ると、現在価値が求められます。もちろん、ここでは、要求収益率=割引率です。N年先のお金を現在価値に割り引く場合は、(1 + 割引率)が(1 + 割引率)^Nに変わります。この1/(1+割引率)^Nのことを、ディスカウントファクター(DF)や割引係数と呼ぶことがあります。