パナソニックは31日、18年度に売上高を10兆円へ拡大する目標は取り下げる一方、20年度に営業利益を15年度計画比約1.5倍の6000億円に増やすという事業方針を発表しました。津賀一宏社長は「利益重視の経営に転換する」と述べたといいます。パナソニックは重点事業を絞り込み、より利益の出る体質づくりを目指すようですが、単なる損益計算書上の利益増加を重視しているのではありません。
2015年4月から同社では経営指標「キャピタル・コスト・マネジメント(CCM)」の運用を見直し、事業部ごとに管理する体制に移行しています。従来一律としていた投資家が期待する収益率を事業部ごとに定め、利益率や資産効率の改善につなげるとしています。
CCMはパナソニックが独自に開発した経営管理指標で以下のような定義となっています。
CCM=事業利益(営業利益+受取配当金―支払利息)― 投下資産コスト(事業部資産*事業部毎の投下資産コスト)
このCCMがプラスなら投下資産コスト(=資本コスト)以上の利益を上げている言えます。まさに、EVA(経済付加価値)に近い概念と言えます。
EVAについては、ファイナンス用語辞典に本日アップしましたのでこちらをご参照ください。
日経新聞の記事「パナソニック、資本コスト事業部別に管理 中長期の成長に備え」(2015年3月11日)を一部抜粋してみましょう。
これまで期待収益率は全社一律で8.4%としていた。これを9%に引き上げるとともに、4月から43ある事業部ごとにレートを変える。為替や国内外の景気変動、設備投資などの要素を勘案して事業ごとにリスクを見極め、約4~16%の間で設定する。海外比率が高く内外の景気動向によって利益の振れ幅が大きいファクトリーオートメーション(FA)事業や電子部品事業は10%を上回る高い収益率を見込む半面、内需向けが中心で比較的安定した収益が見込める住宅関連事業などは低めに設定する。
各事業部のCCMは四半期ごとに、設定した目標に対する進捗度を点検する。目標に達していない場合はその要因を分析し、事業部ごとに利益率の向上や資産の圧縮など具体的な改善策を求める。まず全事業部でCCMをプラスにすることを目指し、仮にマイナスになっても直ちに事業撤退はしない。
この事業部別にレートを設定するというところが大事なわけです。このレートを時にハードルレートと言います。
事業リスクに見合ったハードルレートを設定しないと何が起こるでしょうか。上記のあるように比較的安定した収益が見込める(=事業リスクが低い)住宅関連事業などは、概してリターンはそれほど高くないでしょう。全社一律の8.4%を満たしていないということで却下されるかも知れません。そうなれば、大切な投資機会を逃してしまう可能性があるわけです。
反対に事業リスクが高いFA事業や電子部品事業などは、高いリターンでなければ割に合いません。ところが、全社一律の8.4%を満たしているということで、投資を実行することになってしまうかも知れません。つまり、結果的に割高な投資をしてしまう可能性があるわけです。
企業は、事業リスクに見合うハードルレートを設定することにより投資判断のメリハリをつけるべきなのです。