今回は、私の尊敬するSimon Benniga教授の「ファイナンスの8つの原理」を紹介しましょう。非常に味わい深い文章です。私は折に触れてこの8つの原理を見返しています。
Principle 1:Buy Assets That Add Value; Avoid Buying Assets That Don’t
「価値を増やすような資産を買うこと(増やさないような資産は買わないこと)」
これは当たり前のように聞こえるかも知れませんが、実際にやってみるのは難しいものです。なぜなら、価値を増やすかどうかは、価値を見積もる必要があるからです。
Principle 2:Cash Is King
「キャッシュはキング」
MBAのファイナンスの試験の打ち上げで、みんなで”Cash Is King”と叫びながら乾杯した思い出があります。ファイナンスでは、「利益」ではなく、「キャッシュ」に着目することが大事です。「利益」とは実体のない抽象概念であるということを忘れてはいけません。
Principle 3:The Time Dimension of Financial Decisions is Important
「財務上の意思決定では時間軸を考えることが重要」
ファイナンスの意思決定では、発生時期の異なるキャッシュフローを比較しなくてはいけません。貨幣の時間価値を考慮する必要があるわけです。
Principle 4:Know How to Compute the Cost of Financial Alternatives
「財務上の選択肢のコストの計算方法を知ること」
私たちが車を購入する場合、資金をどのように用立てるか。自己資金、銀行のローン、あるいはディーラーの提供するローンやリース等々いろいろな選択肢があります。このとき、私たちは全ての選択肢のコストの計算方法を知っておく必要があります。
Principle 5:Minimize the Cost of Financing
「調達コストを最少化すること」
多くのファイナンスの意思決定では、投資(購入)の意思決定と資金調達の意思決定は分かれています。まずは、このことを念頭に置いておく必要があります。上記の例で言えば、私たちはすでに車に投資をするという意思決定をすでに下しています。その上で、資金調達コストが最少のものを選択するということです。もちろん、これはあくまでも定量的な側面からの意思決定の方法論です。定性的な側面も考慮して、例えば中長期的な銀行との関係構築が大切と判断し、少々コスト高になったとしても銀行ローンを選択するということもあり得るでしょう。
Principle 6:Take Risk into Account
「リスクを考慮すること」
ファイナンスの意思決定における選択肢を比較する場合に、それぞれの選択肢のリスクを考慮する必要があります。たとえば、あなたが稼いだ100万円を銀行口座に置いておくか、それとも株式投資するかを選択するような場合です。株式投資をすれば、おそらく平均的には、銀行口座に置いておくよりもキャッシュを増やすことはできるかも知れません。一方で、株式投資は銀行口座に置いておくよりも、リスクが高いのは明らかです。ファイナンスにおける「リスク」の考え方は危険ではなく、危機であるということも思い出してください。
Principle 7:Markets Are Efficient and Deal Well with Information
「市場は効率的であり、情報は賢く使うこと」
金融市場には様々な情報が氾濫しています。市場が効率的とは何か。市場で決定される株価はその時点で利用可能な全ての情報を反映していると考えるのが効率的市場仮説と言われるものです。したがって、他の市場参加者を出し抜くためには、誰もが知らない情報(例えばインサイダー情報)が必要だということです。市場の価格はその時点で全ての情報を織り込んでいると考えれば、氾濫する情報の渦に巻き込まれることを少しは防げるかも知れません。
Principle 8:Diversification Is Important
「分散が大切である」
“Don’t put all your eggs in one basket” (全てのタマゴをひとつのバスケットに入れるな)これは非常に有名な文章です。あなたのキャッシュを一つの株式や債券に集中投資してはいけません。資産は分散させることが必要です。その観点でいえば、あなたが従業員持ち株会に参加しているとすれば、ファイナンス的には考えものです。あなたというキャッシュ生み出す資産と株式を同じ会社に投資していることに他ならないからです。