日経新聞(2016/7/6付)によれば、今月5日に実施した10年物国債の入札で国の儲けが600億円になったそうです。
5日の入札では落札利回りが過去最低の年率マイナス0.243%になったと言います。国債とは、国が発行する債券です。借り手の国が儲かるという異常事態が起きているわけです。
国債を落札している金融機関、つまり貸している側が利息を払うというのは実際はどういうことを意味するのでしょうか。ここでは単純な例を使って説明します。国債の入札は、たとえば、「額面100円、利率0.1%、期間10年」という条件の国債をいくらで落札するかということになります。
上記の条件では、金融機関が国債から受け取るキャッシュフローは、毎年0.1円です。10年後の償還日には、利息に元本を合算した100.1円を受け取ることになります。
たとえば、下図の通り、90円で落札するとしたら、利回りは1.165%になります(金融機関にとってみれば、90円キャッシュアウトになります。)。101円で落札すると利回りは0%、マイナス金利というのは、これを101円よりも高い金額で落札するということです。
実際、103.5円で落札すれば、マイナス0.245%になります。こう見ると、実際に金融機関が国に利息を払っているわけではないことがわかります。
それでは、なぜ金融機関は、こんな経済合理性からはずれた買い物をするのでしょうか。10年たてば、確実に損する債券です。それは、10年もたたずに、日銀が金融機関から落札価格よりも高い価格で国債を買い取ってくれると考えているからです。日銀が金融緩和をコミットしているからです。
たとえば、日銀が1年後に105円で買い取ってくれるとしましょう。下図の通り、IRRは1.449%となりました。かくして金融機関は儲けることができるわけです。それでは、105円で買い取った日銀のIRRはどうなるでしょうか。なんと、マイナス0.443%になります。日銀は償還期日まで持ち続けることになりますから、確実に損をするわけです。
国が儲けるのはいいのですが、なんのことはない日銀が損をするということです。日銀の収支が悪化すると日銀が毎年国に納付するお金が減少する可能性があります。言ってみれば、日本国全体で言えば、儲けているのは金融機関のみということです。