私が銀行員時代に学んだことはいろいろありますが、銀行でよく言われたことにこんなことがありました。
「取引先の経理部長など重要なポストにいる人の退職は要注意だ」
経理部長というのは一番その会社の資金繰りのことに詳しいはずです。そんな人が退職する場合はその理由を必ず社長に確認したり、周りの社員にそれとなく探りを入れることが大事だと言われたものです。
つい先日のことです。ソフトバンクの社外取締役である日本電産の永守重信会長兼社長が社外取締役を辞任することが発表されました。業務が忙しくなったことがその理由とされていますが、永守会長が忙しいのは今に始まったことではないでしょう。
昨年7月の決算説明では、アナリストたちからのソフトバンクによる英ARM(半導体設計会社)買収についての質問に対して、永守会長はこう答えています。
「社外取締役を務めているので、私もARM買収の議論の場にいた。孫さん(孫正義ソフトバンク社長)は30年~50年先を見て、3兆3000億円も出してARMを買収した。ただ、技術革新のスピードは速いので、私にそんな勇気はない。私なら3300億円でも買わないでしょうね」
また、もう一人のソフトバンクの社外取締役である、ユニクロを展開するファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は、「日経ヴェリタス」(日本経済新聞社/6月18日号)のインタビューでソフトバンクの孫正義社長に関してこう語っています。
「投資家ではなく実業家として成功してもらいたい。本業に徹してもらいたい。孫さんはグループ会社を5000社にすると言っているが、僕は20~30社にしてそれぞれが何兆円という売上高を持つ会社にしてもらいたい。そうじゃないと実業家ではなく投資家になってしまう」
最大の理解者と言われる柳井正会長が孫社長の経営に異議を唱えたと言えるでしょう。
ソフトバンクの業績など定量的な情報も大切ですが、このような定性的な情報の背景になにがあるのか想像するというのも企業を分析する際にはとても重要です。大切なことはえてして見えない部分にあるものです。