今回は、生命保険協会が発表している調査資料である「株式価値向上に向けた取り組みについて」を取り上げたいと思います。この調査は毎年行われており、今回は上場企業581社、機関投資家213社のアンケート結果をまとめています。
この資料は企業と投資家の認識のギャップがとても表れており、これからの企業経営、コーポレート・ガバナンスを考える上でとても参考になります。ここでは、私が重要だと思うアンケート調査結果をご紹介したいと思います。
まずは、経営目標に関してです。企業が経営目標として重視することが望ましい指標として、投資家は「ROE」との回答が最も多いことがわかります。投資家が投資効率を重視していることがわかります。
出典:生命保険協会「平成29年度 株式価値向上に向けた取り組みについて」以下同様
一方で、企業は、中期経営計画において公表している指標として「ROE」との回答が最も多いものの、「利益額・利益の伸び率」「売上高・売上高の伸び率」との回答が「ROE」に次いで多く、あいかわらず、PL重視の姿勢が色濃く残っています。企業と投資家の認識ギャップは依然として大きいことがわかります。
次に、資本コストに関するアンケート調査です。ここで驚くのは、投資家は企業のROE 水準が資本コストを「下回っている」と認識している割合が最も高いのに、企業自身は「上回っている」と認識している割合が最も高いということです。ここでも、双方の認識ギャップは依然として大きいことがわかります。
さらに、資本コストを把握している企業でも、資本コストの詳細数値を算出している企業は4割程度に留まり、過半数は詳細数値を算出していないという結果となっています。
また、投資の意思決定をする際の判断基準についてもギャップが見られます。投資家は「投下資本利益率(ROIC)」が適切だと考えているのに対し、企業は「事業投資資金の回収期間」や「売上・利益の増加額」を重視しており、両者の投資判断の基準が異なることがわかります。
これらアンケート結果の分析を踏まえ、生命保険協会は、株式価値向上に向けた企業側への要望事項として、財務戦略の観点では以下の4つをあげています。
・資本コストを踏まえたROEの目標設定と水準向上
・経営ビジョンに則した事業ポートフォリオの見直し
・成長投資への手元資金の活用
・中長期の平準的な水準として、配当性向30%以上
なんら目新しいものがあるとは思えません。ただ、今の日本企業はこれらの当たり前のことが当たり前に出来ていないことが問題なのだということがわかります。