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武器としての会計ファイナンス

今回は「武器としての会計ファイナンス(矢部謙介著)」を取り上げたいと思います。著者である矢部謙介氏の前著「武器としての会計思考力」は、実際の企業を題材に、会計を面白く、かつ分かりやすく解説してくれる素晴らしい本でした。その「武器としての会計思考力」で、私がメモしたことには以下のようなことがあります。


・セブン&アイは、「セブンCSカードサービス」という百貨店向けのカード会社を子会社化している。このカード会社が抱える売上債権がBSに計上されているため、純粋な小売業と比べて売上債権が大きくなっている

・コンビニのFC加盟店ではそれぞれのお店が仕入れを行い、在庫を保有していることから、コンビニ本体にはFC加盟店の在庫は計上されない

・商社の売上債権回転期間が長いのは、総合商社の収益計上基準が取引によって生じた差損益、手数料のみだからである


読めば、さもありなんとは思うものの、私自身は知りませんでした。その著者が「武器としての会計ファイナンス」でファイナンスをどのように語るのか非常に興味をもっていました。結論は期待を裏切らない素晴らしい本でした。実際の企業を使って説明してくれているのでより説得力があるのです。

前著以上に今回もいろんな気づき、学びがあったわけですが、「CCCは短いほどよいのか?」という論点は特に良かったです。CCC(Cash Conversion Cycle)は次のように定義されます。

CCC=売上債権回転期間+棚卸資産回転期間-支払債務回転期間

このCCCは、企業が原材料や商品仕入などへ現金を投入してから最終的に現金化されるまでの日数を示し、資金効率を見るための指標です。CCCは小さい方ほど運転資本が少なくてすみ、資金効率は良いということができます。

CCCを短くするために売上債権回転期間と棚卸資産回転期間は短いほどよく、支払債務回転期間は長いほどCCCは小さくなり、資金効率がよくなるという説明がしばしばなされます。

しかし、実際はそれほど単純ではありません。この本では、棚卸資産回転期間の短すぎることや支払債務回転期間の長すぎることの弊害もきちっと記述されているのです。

棚卸資産回転期間が短すぎると、品切れによる機会損失が発生することになるのです。これは私が日産自動車で経験したことです。北米日産では店頭在庫の圧縮によって販売台数の減少につながり、大問題になったことがあります。

また、支払債務回転期間が長すぎることは資金繰りは楽にはなるものの、仕入先にとっての運転資本(借入金)の増加につながり、その利息を納入価格に転嫁してくる可能性があります。

実際のところは、購買部門が支払までの期間を短くすることで納入価格の値下げにつなげることは良くあることです。この辺りまで言及しているファイナンス本は実は多くはありません。

さらに、私が勉強になったはCCCがマイナスの場合です。これは支払よりも入金が先であることを意味します。したがって、CCCマイナスということは、運転資本が必要ないことを意味します。例えば、アップルやアマゾンがCCCマイナスであることは有名です。こうした企業は売上拡大によって運転資本が減少、つまりキャッシュフローは増加します。

恥ずかしながら、私はここで思考停止していました。CCCマイナスの負の面に思いが至らなかったのです。この本では、CCCマイナスの企業の売上高が減少する局面においては運転資本のマイナス額が縮小する、つまりキャッシュフローが減少するということを指摘しています。

このメカニズムによって経営破綻に至った企業として英会話のNOVAを取り上げています。当時、受講生が前払いした受講料の中途解約の問題で世間を騒がしていました。売上拡大期には先に獲得したキャッシュを新規開校への投資に振り向け急成長しました。この本によれば、2004年3月期ではCCC はマイナス150日近くあったようです。

ところが売上減少局面では中途解約の増加もあって前払い分が大きく減少し、それがキャッシュフローの減少に拍車をかけ、NOVAは資金繰りに行き詰まり倒産ということになったのでした。

いやぁ、お薦めの本です。

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