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奇跡の経済教室 第8回(最終回)

国際通貨基金(IMF)は新型コロナウイルスの感染拡大による世界不況をグレート・ロックダウンと名付けました。こんな時期だからこそ「経済学」をじっくりと学んでみたいと考え、「目からウロコが落ちる 奇跡の経済教室【基礎知識編】」を皆さんと一緒に読み解いてきました。今回がその最終回になります。

政府は、「新経済・財政再生計画」(2018年6月策定)に基づき、次の二つの財政健全化目標を掲げています。① 2025年度に国・地方を合わせたプライマリーバランス(PB)を黒字化、② 同時に、債務残高対GDP比の安定的な引下げ。「プライマリーバランス」とは、税収・税外収入と、国債費(国債の元本返済や利子の支払いに充てられる費用)を除く歳出との収支のことです(下図ご参照)。


出典:財務省ホームページ 
ところで、この「プライマリーバランスの黒字化」が達成できたら、財政危機(日本は財政危機の状況にはありませんが)を回避できるのでしょうか。結論から言えば、回避できません。財政破綻の例としてよく引き合いに出されるアルゼンチンとギリシャは、「プライマリーバランスの黒字化」目標を見事に達成していました。そして、その後、まもなくして財政破綻に陥ったのです。

家計や企業であれば、支出を切り詰め、収入を減らせば、借金は減ります。ところが国だとそういうわけにはいきません。国民経済全体(マクロ経済)は、国内民間部門、国内政府部門、海外部門から成り立っています。そして、ある部門における収支の赤字は他の部門における黒字によって相殺されます。つまり、「国内民間部門の収支+国内政府部門の収支+海外部門の収支=0」という恒等式が、事後的に(つまり、様々な調整の結果として)成立することになります。

この恒等式から明らかなように、ひとつの部門の収支を変化させるには、他の二部門の収支も変化させなくてはなりません。例えば、国内政府部門の赤字の減少(黒字化)は、結果的に国内民間部門か海外部門の赤字の増大となるのです。バブル期に国内政府部門の債務が減少したのは、国内民間部門の債務が過剰であったことの裏返しになります。こうして見ると、政府部門の黒字化は、「財政健全化」と呼ばれ、好ましいことのように思われていますが、バブル発生という意味では、民間経済の不健全化だとも言えます。

さて、国内政府部門の収支を改善(財政健全化)するには、政府は税率を上げることができます。税収=税率×国民所得です。政府は税率を自在に上げることはできますが、国民所得は景気次第なので、税収を思い通りにすることはできません。プライマリーバランス黒字化を目標にし、歳出削減や増税することはむしろ景気を悪化させるので、税収を増やすことには失敗するわけです。財政健全化は、やっても無駄であるし、デフレ下ではむしろやってはいけません。

財政政策の目的は、「財政の健全化」ではなく、デフレ脱却など「経済の健全化」でなければなりません。ここまでの議論を理解すれば、日本経済を成長させるための方法はいとも簡単に分かると思います。デフレを脱却すればいいのです。具体的には、「大きな政府」、財政支出の拡大、減税、金融緩和、規制の強化(産業保護・労働者保護)、重要産業の国有化、グローバル化の抑制です。何も難しいことはありません。

「経済学」を学ぼうと、8回にわたって特集してきました。この「経済学」は「現代貨幣論(MMT: Modern Monetary Theory)」というものでした。このMMTは、従来の主流派経済学からは異端と考えられているようです。皆さんはどのように感じましたか。私は、MMTが決して突拍子なものではなく、きっちりと体系化された理論だと思いました。この理論をベースに考えれば、安倍内閣で進められてきた政策、例えば、昨年の消費税増税、移民拡大策、国家戦略特区などの制度活用による自由化促進政策、TPPなどの自由貿易促進などは、日本を経済成長させるどころか、衰退させるものだと理解できます。


出典:MMTによる令和「新」経済論(藤井聡著)

上図は過去20年間の各国の成長率のグラフです。驚くのは日本だけがマイナス成長であるということです。日本経済だけが縮小してしまった一方で、各国経済は豊かになったことがわかります。もちろん、豊かさはGDPでは測れないとうそぶく人間がいるということもわかっています。ただ、1998年以降、デフレになった日本は、平均世帯収入は135万円も下落したのです。格差と貧困の問題は決して、「対岸の火事」ではありません。1995年には全世界のトータルのGDPに占める日本のシェアは約18%ありました。それが2015年には約6%にまで縮小しました。このままデフレが放置されれば、20年後にはシェアは約2%になるでしょう。そうなれば、日本はアジアの一貧国に転落するかも知れません。そうならないためにも、私自身が何ができるのか考えていきたいと思います。

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