トヨタ自動車が2020年6月第1四半期の決算書で、機械設備や装置などの有形固定資産以外に「無形資産」をバランスシート(貸借対照表)に初めて計上しました。もっとも、トヨタ自動車は、2020年6月期の決算から従来の米国会計基準からIFRS(国際財務報告基準)に変更しています。したがって、バランスシート(貸借対照表)という呼び方はしません。IFRSでは、財政状態計算書(Statement of Financial Position)といいます。
2020年3月期のバランスシートには無形資産の項目はないものの、有価証券報告書の注記には、「のれん」は少額なため重要ではないこと、無形資産はソフトウェアと記載されています。今期になって計上した1兆円以上の無形資産は、開発費の一部が資産計上されたものでしょう。
米国会計基準では、開発費は費用処理しますが、IFRSでは資産化の要件を満たすものについては資産計上するからです。とはいえ、原則主義(Principle Based)を採用しているIFRSは、各企業がそれぞれの方針に基づいて財務諸表を作成することになっています。つまり、「無形資産」に何を含めるかは、今後のトヨタ自動車の方針次第といえそうです。
ここで気になるのは、財務諸表上の無形資産の評価額は果たして企業の実態を表したものなのかということです。シンガポール知的財産事務局マンダ・テイ氏によれば、アルファベット(グーグルの持ち株会社)の無形資産の価値を米国の評価会社が試算したところ、開示されている評価額の30倍以上だったといいます。
富の源泉は、機械や不動産などの有形資産から知識やデータなどの無形資産へと変化しています。つまり、企業の優位性は無形資産によって決まる時代です。企業の方針によって財務諸表上の無形資産の価値が変わるというのでは困ります。無形資産の情報開示のあり方が今後争点になるでしょう。