オープンイノベーション時代の「取締役」とは

先日、経営共創基盤CEOの冨山和彦氏の講演「オープンイノベーション時代の「取締役」とは」を聞く機会に恵まれました。今回は講演で印象に残った点を取り上げたいと思います。

平成30年間の「破壊的イノベーションの波の拡大」には二つの要因がある。それは、「グローバリゼーション(市場経済圏の全世界化)」によって世界に垣根がなくなったということ、そして「デジタル革命の進展」による産業構造が変化したことである。ここで冨山氏はこんなたとえ話をしました。

「20年、30年ずっと野球をやっていた人がいきなり、サッカーに観客を奪われはじめた。だからと言って、急にサッカーができるわけないんです。それは野球とサッカーでは選手に求められる資質や運動能力が全く違うからです。」

もちろん、野球をやっていたのは日本企業で、サッカーはGAFAをはじめとする米国IT大手を指すのでしょう。グローバル競争の中で日本経済、企業の地位が低下しています。これは世界時価総額ランキングを見てもわかります。平成元年のランキングをみると日本の規制産業が上位を占めています。破壊的イノベーションの波はこれらの企業をも飲み込んでしまったかのようです。平成30年のトップ10の中には、これらの企業は姿を消し、代わりにアマゾン、アルファベット、フェイスブック、アリババ、テンセントなど30年以内に創業した企業が名を連ねています。

デジタル革命がさらに拡大し、AI新時代(第4次産業革命)の到来が予想される中、自動車、重電、医療、農業などすべての産業にイノベーションが起こり得る時代です。また、持たざる企業が産業構造を変えていく時代もあります。既存企業がイノベーションを実現するのに何が障害になっているのか。ここで、冨山氏は自動車メーカーの研究開発部門で講演したときの話をしてくれました。

「皆さんは車を購入するときに何を基準に選んでますか?と聞くと多くの人は、デザイン、乗員数、車好きな人はエンジンや足回りなんて言います。ここで私はこう聞くんです。では、ワイパーやパワーウィンドウで車を選ぶ人っていますか。そうすると誰も手をあげる人はいない。ところがワイパーやパワーウィンドウを開発している人って聞くとパラパラと手があがるわけです。ワイパーやパワーウィンドウが素晴らしいからこの車を購入する、あるいは価格を高くできるというのでなければ、自前で研究開発するのは意味がないのではないか。外から買ってくればいいのではないかって話なのです」

少なくとも、自前の技術を磨き込むことだけに注力している研究開発部門の有り様はオープンイノベーションを阻む一因にはなっているかも知れません。冨山氏は経営環境がグローバル競争と破壊的イノベーションの時代にシフトしているのにもかかわらず、日本企業には次のような特徴があるといいます。

・新卒一括採用、終身雇用、年功序列、企業内組合などにより形成される極端に同質的で連続的なサラリーマン共同体のムラ型ガバナンス
・変化が連続的で改善的努力の継続がモノをいう環境には強いが変革よりも現状維持のインセンティブが強烈に働きやすい

さらに、日本企業の課題として二つあげています。

・ある事業から撤退することはそこで働く従業員(=サラリーマン共同体のメンバー)の失業につながることから、選択と集中(捨象)が進まない
・トップマネジメントの交代が業績との関係性が薄く、現トップマネジメントとOB経営者たちの「ムラ内」だけで、次期トップマネジメントを選任する傾向がある

冨山氏曰く「サラリーマンのサラリーマンによるサラリーマンのための共同体モデル」の「ムラの空気のガバナンス」の限界をどう克服するか。このためには、ムラの空気をあえて読まない社外取締役の重要性とその活用、そしてOBガバナンスを排除すべく、トップマネジメント人事の透明性がいっそう問われることになると思います。なんだかんだ言って、いつの時代も組織はトップマネジメントによってしか変わることはできないのです。

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