伊藤忠商事の事業投資管理

2000年以降、日本企業におけるM&Aは増加傾向にあります。それに伴い、事業のグローバル化や多角化が進んでいます。これにより、事業ポートフォリオマネジメントがますます重要になってきています。事業ポートフォリオマネジメントとは、自社が経営する複数の事業群の構成割合を最適化し、グループ全体の収益性を高め、ひいては企業価値の最大化を目指す経営管理手法のことです。

現状では、大規模な多角化企業の収益性を比較すると日本企業は欧米企業に大きく水をあけられています。その要因のひとつとして、日本企業は資本コストに見合わない低収益事業を持ち続けることにあると考えられます。資本コストに無頓着で、PLが黒字の事業であれば、それで事足れりと考える経営者が多いのではないでしょうか。

事業ポートフォリオマネジメントを実践していくためには投資判断基準の明確化はもちろんのこと事業撤退や売却等を含めた基準の明確化が大切です。日本企業の中では先駆的な投資管理プロセスを導入している伊藤忠商事から私たちが学ぶべきことは少なくありません。同社の「投資基準」と「事業EXIT選定基準」は次の通りです。

【投資基準】
・投資先のフリー・キャッシュ・フローをベースとしてNPV*に基づく投資効率
*NPVを算出する際には、約40の業種別に設定したハードルレート(国別)を使用
・受取配当金やトレード収益等の単体へのキャッシュイン
・投資先の利益規模

(出典:伊藤忠商事 統合レポート2019

伊藤忠商事のように業種ごとにハードルレートを設定している企業は少数派です。同社は2009年に導入しました。大手商社の中では、三菱商事が10年遅れて昨年2019年より事業ごとにハードルレートを設定し始めました。三井物産と住友商事は社内のハードルレートは今だ一本だと聞いています。

【事業EXIT選定基準】
① 3期累計赤字
②リターンの投資時計画比下方乖離
③ 付加価値{連結貢献*-(連結投資簿価×資本コスト)}の3期累計赤字
*連結貢献:取込損益とトレードメリットの合計

(出典:伊藤忠商事 統合レポート2019)

③の「付加価値」というのはEVA(経済的付加価値)に似たような考え方です。上記の3つのいずれかの基準に抵触した場合は、主管部署にて事業を継続すべきか、EXITすべきか議論することになります。ここでも継続する場合は次の3つの条件をクリアすべきとしています。

①連結リターンの改善
②連結投資簿価の上昇抑制
③赤字・損失の防止

多くの企業では投資基準が明確になっていたとしても、撤退のための判断基準・ルールが明確になっていないことが多いものです。また、判断基準に「3期累計赤字」というルールはあっても、将来的なキャッシュフローの視点や資本コストの概念が欠けていたりすることが往々にしてあります。

また、撤退基準に抵触したあとに誰がどのタイミングで何をするのか、というところまで明確になっている企業はさらに少数派だと思います。他社の製品、商品、サービスには関心があっても、他社がどのような投資管理を行っているかをベンチマークしている企業も少ないように思います。企業価値は投資によって創造されることを忘れてはなりません。事業ポートフォリオマネジメントの要である投資基準と撤退基準の在り方をぜひ伊藤忠商事を参考にして検討してもらいたいと思います。

動画配信開始