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オポチュニティ企業とクオリティ企業

先日、「オポチュニティとクオリティ 稼ぐ力の源泉を考える」と題する講演に行ってきました。スピーカーは、あの「ストーリーとしての競争戦略」で有名な一橋大学院国際企業戦略研究科の楠木教授です。とても示唆に富むお話でしたので紹介したいと思います。

楠木教授はこう言い切ります。日本企業の経営課題はいたってシンプルである。つまり、稼ぐ力を取り戻すということ。そして戦略のゴールは長期利益である。

競争市場で長期利益を獲得することが出来れば、資本市場では株価の上昇という形で結果的に評価が高まり、労働市場では従業員の働きがいが高まるということになり、その結果として顧客満足という追求すべき目的が達成されるというのです。

楠木教授は事業の稼ぐ力の源泉に注目して企業を「オポチュニティ企業」と「クオリティ企業」に類型化しています。

「オポチュニティ企業」の稼ぐ力の源泉は企業の外部にあるオポチュニティであり、そのためには他社よりも早く、大きなオポチュニティをつかむことが大切です。そして先行者利益や規模の経済のメリットを享受します。成長することが一義的な目標であり、利益はあとからついてくると考えます。「オポチュニティ企業」の代表格としてソフトバンクを取り上げ、楠木教授はオポチュニティ大帝国と呼んでいました。

経済の「成長期」における主役はまさに「オポチュニティ企業」であり、本社レベルの戦略的選択がカギであり、事業立地の選択と事業ポートフォリオの組み換えをどんどん実行していく必要があることから、投資のセンスが必要だといいます。

一方、経済の「成熟期」においては、主役は「クオリティ企業」になるといいます。稼ぐ力の源泉が外部環境のオポチュニティから企業内部で創るクオリティにシフトします。事業内部の腰が据わった価値創造が必要です。差別化された顧客価値の提供が大切です。

ただ、それは単なる「モノ」や「サービス」のクオリティを高めるということではなく、「モノ」や「サービス」の背後にある独自の価値創造プロセスのクオリティなのだと楠木教授はいいます。「オポチュニティ企業」は、成長こそが大事であると考えますが、「クオリティ企業」は成長やグローバル化はあくまでも結果であると考えます。楠木教授は「クオリティ企業」の代表格としてファーストリテイリングを取り上げ、柳井さんをクオリティ大明神と呼んでいました。

楠木教授はケースバイケースであると前置きしたうえで、成熟経済下にある日本企業は「クオリティ企業」を目指すべきとしています。

「クオリティ企業」は特定の領域で強みを深堀りし、結果的に売上高100億円から数千億円の企業が多いといいます。「日本企業で儲けている企業は、売上高は500億円規模が多い」という神戸大学の三品教授のコメントに言及していました。これらの企業は営業利益率は10%以上です。カルビーの松本社長は以前、米国のスタンダードで言えば、営業利益率一桁は社長失格だと言っていましたが、どうやら営業利益率10%が分水嶺と言えるかも知れません。

成熟経済下では、あからさまなオポチュニティはそうそうありません。未来を「こうなるだろう」と考えるのではなく、「こうしよう」と考えるのが大切であるといいます。なぜならば、戦略は未来への意志だからです。

最後に楠木教授は「オポチュニティ企業」と「クオリティ企業」をそれぞれを帆船とモーターボートに例えていました。帆船は時代の風を受けてどこよりも帆をあげて、オポチュニティに向かって早く進む必要がある。同じ風を受けていますから、どの船も同じ方向に進んでいくことになります。多くの日本企業は、帆船ではなく、エンジンを持ったモーターボートのように自由意志を持って自分の好きなところへ行くべきなのでしょう。

そのためには、自分がいちばん面白がっていることが大切。戦略の神髄は思わず人に話したくなるような面白いストーリーにある。お話の折々に出てくる例え話のうまさに楠木教授ご本人がまさに一流のストーリーテラーでもあるということを実感しました。

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