『ザ・ゴール(The Goal)』は、イスラエルの物理学者エリヤフ・ゴールドラットによって1984年に発表されたビジネス小説です。製造業の工場を舞台に、企業経営や生産管理の分野で重要な「制約理論(TOC: Theory of Constraints)」を解説し、全世界で1000万人以上が読んだとされるベストセラーです。本書の魅力は、物語形式を通じて難解な経営理論をわかりやすく学べる点にあって、私も初めて読んだ時は感動しました。
本書の中心となる「制約理論(TOC)」は、企業や組織において「ボトルネック」に注目し、それを改善することで全体の効率や利益を最大化するアプローチです。たとえば、製造ラインでは最も遅い工程が全体のスピードを左右することから、その部分を改善すれば全体の生産性が大きく向上します。物語の主人公であるアレックスが、恩師ジョナからの助言をもとにボトルネックを発見し、工場の業績を改善していく過程を通じて、TOCの本質が読者に理解しやすく描かれています。
企業の究極の目標についても本書は鋭く掘り下げています。それは「利益を生み出し続けること」であり、この目的を達成するために「スループット(販売量)」「在庫」「運営費用」の3つの指標を最適化することが不可欠だとされています。このシンプルな原則が、企業活動における持続的な利益を可能にする道筋を示しています。
『ザ・ゴール』は製造業に限らず、さまざまな業界においても応用できる理論を提供しています。日本でも、2001年に翻訳版が発売されて以降、多くの企業がTOCを応用した成功事例を残しています。たとえば、グンゼ株式会社の電子部品事業部では、「DBR(Drum-Buffer-Rope)」というTOCの手法を導入し、生産リードタイムを大幅に短縮したほか、在庫削減にも成功し、急な受注増に対応できる柔軟な生産体制を築きました。
今回、私は『ザ・ゴール』シリーズの一冊である『在庫管理の魔術』を手に取りました。これは小売業における在庫管理の課題に焦点を当てたもので、過剰在庫や売り逃しという永遠のジレンマにどう対処し、利益を最大化するかが物語形式で解説されています。
私自身、日産在職時には、在庫削減は一部門だけで完結するものではないと痛感しました。製造部門が在庫を減らそうとしても、営業部門は販売機会を逃したくないため、多めに在庫を持ちたいと主張します。さらに、購買部門はコスト削減のためにまとめ買いを検討し、在庫の増加につながることもあります。こうした状況では、会社全体で在庫の優先順位を定め、販売計画・生産計画・購買計画が連携することが不可欠です。
『ザ・ゴール』シリーズの『在庫管理の魔術』は、小売業における在庫管理の課題とその解決策をわかりやすく解説した一冊で、制約理論(TOC)を活用した在庫最適化やリードタイム短縮といった実務にも応用できる手法が紹介されています。お薦めしたい書籍です。