2018/5/29付日経新聞によれば、日本企業の前期のROEが10.4%と、1980年代以降、何度も挑戦して越えられなかった10%の壁を突破。その原動力とは、販売価格の引き上げだといいます。コスト削減によるROE向上ではないだけに、久しぶりの明るいニュースだと思いました。
今回は値上げや値下げの利益に与えるインパクトを具体的な数字をつかって見てみたいと思います。当たり前のことですが、利益を増やすためには、売上高を増やし、コストを削減する必要があります。
ここでは、売上高を増やすことを考えてみましょう。売上高を増やすには、これまた当たり前ですが、販売数量を上げるか、価格を上げるかのどちらかです。往々にして営業部門は、価格を引き下げて販売数量増加をねらう施策をとろうとします。ところが、これが命とりになります。なぜなら、売上高は増えたとしても、利益は大幅に減少することが多いからです。
具体的な数値を使って、価格が売上総利益に与えるインパクトを見てみましょう。
現在の製品の価格が1,000円、製品1個当たりの変動費(変動単価)が750円だとします。マージンは250円です。販売数量が100個だとすると、売上高は、100,000円(=1,000円×100個)、売上原価は75,000円(=750円×100個)、売上総利益は25,000円となります(現状)
出典:オントラック作成
仮に販売価格を3%あげて1,030円にすることが出来るとしましょう(ケースA)。この場合、販売数量が10%ダウンして90個になったとしても、売上総利益は25,200円と現在よりも増益となります。
それでは、営業部門がこんなことを言ってきたとします。「15%値引きを認めてくれれば、販売数量120個(現状比20%増)にしてみせます」
実際にシミュレーションしてみると、確かに売上高は102,000円と現状よりも増加しています(ケースB)。ところが、売上総利益は12,000円と、なんと半減していることがわかります。
それでは、現状の売上総利益25,000円を維持するには、一体どれくらいの販売数量が必要なのでしょうか。なんと、250個と現状の2.5倍もの販売数量を上げることが出来て初めて現状の売上総利益25,000円を確保できることがわかります(ケースC)。
このように売上高は2倍以上もあげているのに売上総利益は同じという現実をみると、いかに価格引き下げの利益に与える影響が大きいかが、お分かりになるはずです。
値上げは増益に直結します。日経新聞によれば、ヤマトホールディングスは「宅急便」の平均単価を1割引き上げ、今期の純利益は2倍になるといいます。
他にも、鉄スクラップを鉄鋼に変える電炉の中核部品、黒鉛電極を製造販売する東海カーボンは1年前の3倍の販売価格を提示しているにもかかわらず、来年分まで売り切れだそうです。また、コマツも製品力に自信があるため、中国やインドネシアなどで価格を引き上げたとあります。
顧客に十分な価値提供をしている企業であれば、値上げできることがわかります。この20年、日本企業は値下げ競争で疲弊してきましたが、ようやくその流れが変わってきたようです。いい流れだなと思います。