私が日産自動車でキャッシュマネジメントの仕事をやっていたときのことです。
私の仕事のひとつに予実管理というものがありました。予実管理とは、予算と実績の管理のことをいいます。日産自動車の本社として、海外の子会社のキャッシュフローの計画と実績の差異を分析してマネジメントにレポートするという仕事でした。
差異分析とは、一般的には、「計画に対する実績の差異をとらえ、その差異の原因を究明し、対応策を考える」ことでしょう。
でも、これが大きな勘違いだったのです。今思えば、とんだ的外れなことをしていたと気づかされます。私は海外子会社に対してこんな質問を毎度毎度していたのです。
「なぜ、計画と実績が違うのか?」
私は計画と実績の差異の原因を調べて何をしたかったのでしょうか。実績は過去の数字です。いまさら何を言っても変わることはありません。原因を究明するのは、しかるべき対応策を考えるため。本当にそんなことが出来るのでしょうか。
海外子会社からは、未達の原因などは、それこそ、いくらでも出てきました。他社の販売キャンペーン開始のせいで売上が振るわなかったから始まって、しまいには天候不順のせいだと言いだす始末でした。考えてみれば、自分たちに原因があるなんてことを言うはずもないのです。
原因を調べて、それに対応すれば計画と実績の差異を埋められるというのは幻想です。相手は、原因は自分にはなく、すべて外部環境のせいにしているのです。その外部環境を私たちがコントロール出来るわけがないのです。
実際のところ、原因はこうだから、こういう対策をとろうという前向きな話になることはまずありませんでした。反対に、原因を追及してみても、その原因を取り除くことが出来ないことがわかって、「じゃあしょうがないね」なんてこともあったのです。
では、私はどうすれば良かったのか。次のような質問をすれば良かったのです。
「どうすれば、計画を達成できるか?」
つまり、質問を”Why?”から”How?”に変えるということです。未達の原因を追求しても、何も生まれない。大切なことは、未来にどうすれば、計画を達成することができるかという具体的なアクションなのです。
実績と計画の差とは現在の私たちのいる位置を確認するためにあって、未達の原因を追及するものではなかったのです。私たちは、物事がうまくいかない時にその原因を追求しがちです。「なぜ達成できないのか?」という議論は時として、言われた人を追い詰めます。その人から決して前向きな答えなど返ってくるはずもないのです。
私は、最近起こった自動車メーカーの不祥事もこのような勘違いからから発生したのではないかと思います。「なぜ、他社に出来てうちに出来ないんだ?」そんな質問が毎度毎度繰り返されたらどうでしょうか。
言われ続けた人間は、隠したり、データを改ざんしたくなるのではないでしょうか。
「どうすれば、環境基準に合うものを作れるだろうか?」という質問をしていたら、状況は変わっていたかも知れません。