2024年7~9月期決算で、米国のテック企業のAI(人工知能)関連の巨額投資が話題になりました。日経新聞によれば、アップルを除く主要4社(アルファベット、マイクロソフト、アマゾン、メタ)の設備投資額は前年同期比で7割増の約650億ドル(約10兆円)となり、過去最高を記録しました。
シティグループの分析によると、主要4社の2024年の設備投資額は前年比42%増の2090億ドル(約32兆円)に達し、その8割がデータセンターに使われると予測されています。これは、日本の電機業界の上場企業全体の年間投資額の約6倍に相当します。AIの進化には膨大な学習データとコンピューター能力が必要であり、これらの企業の投資額を押し上げています。
AIは、間違いなくIT業界の成長を支える重要な要素ですが、その発展には巨額の投資が必要です。株式市場ではその先行投資が収益化に結びつくのか、懐疑的な声もあるといいます。それでも、各社は投資が十分な成果に結びつかないというリスクよりも、投資をしないことによる機会損失のリスクを恐れているようにも思います。
これらの巨額の投資を支えているのは、明らかに各社の毎年稼ぎ出す営業キャッシュフローです。以下のチャートは、4社の過去の営業CF、投資CF、それにフリーキャッシュフロー(FCF)の推移です。単位はどれも百万USDです。いずれの企業も、コロナ禍の時期を除けば、順調に営業キャッシュフローを増やしていることがわかります。さらに、アマゾンを除けば、FCFがプラスですから、あくまでも営業キャッシュフローの範囲内で投資活動を行っていることがわかります。
直近の決算では、マイクロソフトの投資規模が際立っています。1185億ドル(約18兆円)の営業キャッシュフローに対して、約970億ドル(約15兆円)もの巨額の投資を実施しました。この金額は、他の3社の投資額がかわいく見えてくるほどのインパクトがあります。
マイクロソフトの最近の巨額投資に関して、CEOのサティア・ナデラは「OpenAIとのパートナーシップは両社にとって非常に有益であり、マイクロソフトはOpenAIの成長を支援し、その結果として大きな成功を収めている」と述べています。また、Azure OpenAIサービスの利用が急増しており、これがクラウド事業の成長に寄与していることも指摘しています。
こうした米国テック企業による巨額のAI投資競争に対し、日本企業が今から追随するのは現実的ではありません。しかし、それはチャンスがないという意味ではありません。むしろ、日本企業は「持たざるものの強み」を活かし、既存のAI技術をうまく活用する側として競争力を高めるべきです。
AIはあくまでも、日常業務を支援するツールととらえるのです。現場改善や課題解決に長けた日本企業だからこそ、AIを効果的に活用することで、付加価値の高い成果を生み出せる余地があります。巨額の投資をしなくても、既存のAI技術を利用できる時代が到来しているのです。大切なことは「AIをどう活用して自社の強みを最大化できるか」でしょう。それこそが、これからの日本企業の生き残り戦略となると思います。