今回、お客様からのご質問に関連し、新規事業への投資判断における「With-Withoutの原則」について整理したいと思います。
With-Withoutの原則とは、投資の判断をする際、「投資をする場合(With)」と「現状のまま、投資をしない場合(Without)」とを比較してどれだけキャッシュフローが変化するかに基づいて行うべきであるという原則のことです。
今回のご質問では、新規事業の投資資金として米ドル預金を活用することが想定されています。社内では「米ドル預金の利息を受け取るよりも投資した方が良いのではないか」という議論がなされているとのことでした。
この場合、投資を行わなければ、米ドル預金から利息を受け取ることができます。したがって、この利息は「Without」のキャッシュフローとして考慮すべきです。With-Withoutのキャッシュフローの差分をどのように割り引くべきかが今回のご質問です。
実は、単純にキャッシュフローの差分を計算し、特定の割引率でNPVを算出し、投資評価することは、With(投資実行)とWithout(投資未実行)のキャッシュフローのリスクが同一であることが前提となっています。
しかし、今回のケースでは、新規事業のリスクとドル預金のリスクは大きく異なります。ドル預金はリスクフリーに近いのに対し、新規事業の投資にはリスクが伴います。そのため、以下のように評価する必要があります。
1.With(新規事業への投資)のキャッシュフローは、事業リスクを考慮したリスク調整済みの割引率を適用してNPVを算出する
2.Without(ドル預金の利息)のキャッシュフローは、低リスク資産の割引率(例:リスクフリーレート)を適用してNPVを算出する
3.どちらのNPVが大きいかで判断する
このように、それぞれのリスクに応じた適切な割引率を用いることで、より正確な投資判断が可能になります。新規事業への投資の意思決定では、「リスクに見合ったリターンを得られるかどうか」が重要です。単純なキャッシュフローの差分評価ではなく、WithとWithoutのそれぞれのキャッシュフローのリスクに応じた適切な割引率で評価し、NPVを比較することで、より合理的な投資判断が可能となるのです。