事業を売却すべきか?(ある大手商社の事例)

ある大手商社の事業投資担当から相談がありました。以前に投資した事業の売却を検討しているとのことです。上司の主張は以下の通りです。

「2017年の今に事業売却すれば、900百万円の値がつく。仲介手数料や税金などを加味しても800百円のキャッシュが入ってくる。この場合のIRRは14.20%(セルE15)となる。一方で、このまま事業継続する場合のIRRは13.85%(セルE19)である。事業売却した方がIRRが高くなることから、今売却すべきだ。」

上司の主張になんとなく違和感を感じたその投資担当者は事業売却の判断をどうすべきか、悩んでいたのです。あなただったら、どう考えるでしょうか。

結論から言えば、上司の主張は間違いです。間違いは大きく分けて2つあります。ひとつは、率指標であるIRRで投資の優先順位をつけていることです。

例えば、100円投資して1年後に150円になる場合、IRRは50%となります。1,000円投資して1年後に1,100円になる場合は、IRRは10%となります。あなたはどちらを選ぶでしょうか。

後者を選ぶはずです。50円増えるよりも、100円増える方が嬉しいはずだからです。このようにIRRが高いという理由で選択した場合、意思決定を誤る可能性があるのです。

さらに、上司は致命的な間違いを犯しています。それは、「With-Withoutの原則」を守っていないということです。投資判断は、「投資をした場合(アクションを起こした場合)―With」と「現状維持の場合―Without」のそれぞれのキャッシュフローの差額で行わなければならないというものです。

上司は投資開始時点の2014年からIRRを計算していますが、過去のキャッシュフローは事業継続でも売却でも発生していることから、WithとWithoutの差額をとれば、消えてしまいます。つまり、これからの意思決定には無関係であることになります。

ここで、WithとWithoutの差額のキャッシュフローを算出し、ハードルレート(割引率)8%でNPVを計算してみるとNPVは▲101百万円(セルE25)となります。したがって、このケースでは事業を売却するのではなく、継続すべきということになるのです。

今回は実際に起こったケース(数字は架空のもの)を取り上げて、IRRで優先順位はつけられないこと、投資判断は、「With-Withoutの原則」を守るべきであること説明しました。間違えやすい点ですから、みなさんも十分に注意して下さい。

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