今回は、2024年11月に東京証券取引所(東証)が発表した「悪例集」を紹介したいと思います。これは、上場企業の経営方針や施策について「投資家の目線とギャップのある事例」を集めたものです。海外の中長期投資家など約300社への聞き取りに基づいています。2024年2月には資本コストや株価を意識した経営の好例を発表しました(参考ブログ:投資家信頼の獲得: 東証が促す真の企業価値経営)。今回はさらに踏み込み、改善すべき事例をまとめました。
東証は、企業が自らの経営水準を把握できるよう、投資家目線とのギャップを以下の3段階に分類しています。
【レベル1:現状分析や取り組みが不十分な状況】
・現状分析や評価が表面的な内容にとどまる
・取り組みを並べるだけの開示となっている
・合理的な理由もなく、対話に応じない
【レベル2:取り組み内容が投資者に評価されていない状況】
・現状分析が投資者目線とズレている
・目指すバランスシート(BS)やキャピタルアロケーション方針の検討が不十分
・目標設定が投資者目線とズレている
・課題の分析や追加対応の検討を機動的に行わない
【レベル3:さらなる向上が求められる状況】
・不採算事業の縮小・撤退の検討が十分に行われていない
・業績連動の役員報酬が中長期的な企業価値向上に向けたインセンティブとなっていない
・対話の実施状況の開示が具体性に欠ける
今回の取り組みの興味深い点は、実際の企業開示事例を元に加工したものに投資家がコメントしていることです。一部を紹介します。
“投資者が認識する基準から乖離した株主資本コストを用いており、実効的な目標設定や取り組みにつながらない。”
“ROEが株主資本コストを少し超えている、もしくはPBRが1倍を少し超えているからといって、更なる収益性や市場評価の向上を目指す必要がないということではない。”
“目指すバランスシートの姿やキャピタルアロケーションの方針に関する検討が十分になされておらず、目先の株価対策や一過性の対応として株主還元を行っていると感じる。”
”政策保有株の縮減を掲げるのは良いが、売却して得た資金について、成長投資や株主還元など、何に振り向けていくかが示されていないと、ただ売却するだけで、ポジティブな投資材料とはなり難い”
これらのコメントからも分かる通り、投資者の視点は非常に手厳しく、企業に対する具体的な期待や基準が明確に示されています。
東証がこのように投資家目線に基づいた評価を公表することで、企業は自らの開示内容を客観的に見直す機会を得られるでしょう。また、投資家との対話を通じてより効果的な経営を目指し、さらなる企業価値向上につながればいいと思います。