増し分で考える(前半)

まずは経済学でよく使われる有名な質問に答えていただきましょう。あなただったら、どちらを選ぶでしょうか

A)  これからの1年を水なしで過ごす
B)  これからの1年をダイヤモンドなしで過ごす

誰もが「ダイヤモンドなしで過ごす」を選ぶでしょう。1年間水なしで生きていくことなど出来ないことは明白だからです。

それでは、賞品としていずれかをもらえるとしたら、どちらを選びますか。

A)  500リットルの水
B) 100カラットのダイヤモンド

誰もがダイヤモンドを選ぶはずです。ダイヤモンドの方が500リットルの水よりも価値があることは明らかだからです。

それでは、最初の質問と何が違うのでしょうか。最初の質問で「これからの1年を水なしで過ごす」というのは、水が全くないという状況が1年続くということです。二番目の質問は、私たちにはすでに水や幾つかのダイヤモンドがあるという状況の中でどちらかを選択するということです。

つまり、500リットルの水を追加的に手に入れるのと、100カラットのダイヤモンドを追加的に手に入れるのとをどちらを選択するのか、ということになります。これが経済学でいう「増し分で考える」ということの意味です。このように水とダイヤモンドの例においては、我々は間違えることはありません。

ところが、現実の問題においては、この「増し分で考える」ということを忘れてしまうことが往々にしてあります。例えば、従業員を一人を雇うべきか、否かなどの問題もそうです。多くの人が従業員の生産性で判断しようとするのです。

具体的にお話しましょう。あなたの会社には従業員が10人います。月間の給料は一人50万円だとすると、月間の人件費合計は500万円です。月間売上高が1,200万円で、その他経費を無視すれば、利益は700万円(=売上高1,200万円-人件費500万円)になります。従業員一人あたりの売上高は、図にある通り、120万円、利益は70万円になります。増し分で考える

それでは、従業員を一人増やせば、売上高が1,300万円になるとしたら、あなたは給料を50万円追加で払ってまで従業員を増やそうとするでしょうか。あなたが、もし従業員の生産性を重視するならば、増やさないという決断をするでしょう。なぜなら、従業員一人当たりの売上高も利益も減少しているからです。

それでは、増し分で考えればどうでしょうか。「増し分で考える」ということは、「変化するポイントに着目する」とも言えるかも知れません。従業員一人増やすことによって、何が変化するでしょうか。人件費は50万円増えるものの、売上高は100万円増えています。つまり、利益の総額は50万円増えることになるのです。

この新人が稼ぎ出す売上高が雇用のコストを上回るならば、雇用すべきということになります。企業の目的は従業員一人あたりの利益を増やすことではなく、全体の利益を増やすことだということを忘れてはいけません。

増し分で考えないと意思決定を誤ることがありますので、注意が必要です。次回は実際にクライアント先で起きた例を使ってご説明したいと思います。

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