持続的成長達成の2つのエンジン: ROEとESG

先日、伊藤レポートで有名な一橋大学の伊藤邦雄先生の基調講演「持続的成長達成の2つのエンジン: ROEとESG」を聞く機会がありました。

今回はこの講演における伊藤先生のコメントを箇条書きではありますがご紹介したいと思います。


これまで大学で37年教えてきたが、ようやくこの4年くらいになって、日本の未来が開けてきた気がする。

コーポレートガバナンスの「枠組み」はようやく整備されてきた(第一幕)。これからは、「形式」から「実質」へ進めていく第二幕が始まると言える。

これからの日本の経営の姿・形を考えるうえで、まずは、これまでの国際的な企業価値競争の敗北を受け止めなければならない。

日本企業のROEが低いのは、欧米と比べ、事業収益力が低いのが原因である。レバレッジをかけていないからという人がいるが、レバレッジに関しては欧米と大差ないことがわかっている。

伊藤レポートではROE8%超えを目指すことを提唱している。本来であれば、「自社の資本コストを超えるROEを出す」というべきであるが、具体的な数字を出さなければ、国内に浸透しないという議論があり、最終的にROE8%の数字を出すことにした。数字を出すことによって、ある程度はうまくいったと思っている。

国内の機関投資家の要求収益率の平均は6.3%。海外の機関投資家の要求収益率の平均は7.2%。したがって、ROE8%は悪くないと思う。

ROEが高まると、PBRも上昇するという研究がある。大体PBRが1を超えるのが、ROE8%くらいである。

伊藤レポートを出した時、Bloombergの記事は、「利益の落後者だった日本が伊藤レポートによって、やっと8%のリターンを求めることで世界のキャッチアップを始めた」というタイトルを付けた。それまで「利益の落後者」と言われていた。

10年位前にもROEブーム的なことがあったものの、すぐに収束してしまった。今回は「デジャブ」を繰り返さない。

半藤一利は、
・日本人は国民的熱狂を作って、流されやすい
・重要な危機に直面すると、抽象論へ向かう
と言っている。同じ失敗を繰り返してはならない。

企業価値創造競争失敗の要因は次の通り、
・「共同体」的体質の企業システム
・「外」の論理の介入の排除
・ 買収防衛的工夫
・「バンクガバナンス」への依存
・「稼ぐ」ことに対する消極性
・ 次期経営トップの選任は、現社長の専権事項、ないし会長や相談役の意見を斟酌して決める慣行

ひふみの藤野社長は「大企業の社長は社長になることで、やり遂げ感があるので、あとは消化試合となってしまう」と言っている。

東証一部企業の優秀な社長は、「社長としてきちんとした経営をするには、3年2期(6年)でギリギリ」と言っていた。しかし、実際、その期間やれる人は少なく、社長としての仕事は何もできない。

営業利益率10%以下のセグメントは、日本が世界で一番多い。

ROEの中央値は2012年の5.86%から2017年の8.15%へ、
ROEの平均値は2012年の5.09%から2017年の7.73%へ改善してきている。
ちなみに伊藤レポートを出したのは、2014年8月。

ジョージ・ソロスは、
SDGs(=Sustainable Development Goals: 持続可能な開発目標)は、一見個々のビジネスと対立するように映るが、膨大なビジネスチャンスがある」と言っている。

SDGsに注目が集まることで、長期投資家のニーズが顕在化してきている。

投資リターンが大きいが、社会的インパクトが小さい「従来型の投資」、投資リターンが小さいが、社会的インパクトが大きい「慈善事業」ではなく、これからは、投資リターンも大きく、社会的インパクトも大きい「インパクト投資」が大事となってくる。

昨年、「価値協創ガイダンス」「伊藤レポート2.0」を発表した。

「価値協創ガイダンス」に基づいて作成された「統合報告書」には、「価値協創ガイダンス」のロゴが入るようになる(オムロンの報告書)。

グローバルリスクに取り上げられる環境問題の割合が大きくなってきた。

良質のROEと良質のESG(Environment(環境)、Social(社会)、Governance
(ガバナンス))が必要。両方を合わせたROESG経営(商標を出す予定)が、今後の経営の在り方。それを支えるには、「後継者育成・人材投資によるタレントパイプライン作り」が大事になってくる。


伊藤先生は日本企業のコーポレートガバナンスの「枠組み」がようやく整備され、これからは、「形式」から「実質」へ進めていく第二幕が始まるとするなど、未来に対して楽観的であるという印象です。

ただ、伊藤先生が話されている企業価値創造競争失敗の要因をみれば、これらの課題が一朝一夕で解決できるとも思えません。それは、あいかわらずの「ムラ社会」的感覚から抜け出せていない経営者層のメンタリティーがその根本にあると考えられるからです。

そうは言っても、私たちは前に進まなくてはなりません。まずは、経営者層は投資家とのコミュニケーションの道具を手に入れることから始めなくてはいけないでしょう。その道具のひとつとしてファイナンスの重要性は今後ますます高まってくると思います。ファイナンスは英語と同じく、今やビジネスパーソンにはなくてはならないコミュニケーションツールという認識を持ってもらいたいものです。

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