誰が株式市場を壊すのか

2021年7月18日付日経新聞によれば、世界でパッシブ運用の比率が高まっているそうです。パッシブとは受動的という意味で、パッシブ運用とは株価指数に連動する投資等で市場の平均的なリターンを目標とするものです。これに対して、アクティブ運用は、ファンドマネージャーが投資対象となる企業を分析して割安・割高等を判断し、市場の平均リターンを超える成績を目指す運用のことを言います。

リーマン危機後の相場では、多くのアクティブファンドの運用成績は低コストのパッシブ運用に負けています。また、伝説の投資家バフェットは、自分の死後に妻にはこうアドバイスすると言っています。「10%を短期米国債、90%を低コストのS&P500インデックスファンドに投資する」こうしたこともあってか、投資資金はアクティブファンドからパッシブファンドに向かいました。今では世界の株式ファンドに占めるパッシブ比率は44%と言いますから、パッシブ運用が隆盛の時代と言えます。

しかし、日経新聞の記事は市場のパッシブ化の弊害について論じています。日経平均株価指数やS&P500種指数などインデックス(指数)と連動する目的でつくられたインデックスファンドは、割高な値段で購入してしまう可能性が指摘されています。典型例が2020年12月にS&P500種株価指数に採用された電気自動車のテスラ株です。

指数組み入れ前のテスラの時価総額は6600億ドル(約72兆円)でした。S&P500は時価総額加重平均型の指数です。つまり、時価総額に比例して組み入れ比率が決まります。連動するインデックスファンドはテスラの時価総額に見合う1000億ドル規模の買いを入れたといいます。組み入れ後のテスラ株は大きく値を下げました。インデックスファンドは株価が割高でも機械的に買っていくことから、結果的に割高な値段で購入してしまう可能性があるのです。

さらに弊害があります。例えば、全ての運用がパッシブ運用になったらどうでしょうか。投資対象を選別するファンドマネージャーが姿を消す世界です。これは、企業をモニタリングし、業績予想し、売買を通して株価に反映する人がいなくなることを意味します。忘れてはならないのは、パッシブ運用は、アクティブ運用の存在によって支えられていることです。ファンドマネージャーが業績に従って個別株を選別してくれるからこそ株価がファンダメンタルズを反映するのです。

個別企業を時間とコストをかけて調査することなく、市場をまるごと買おうとするパッシブ運用をノーベル経済学賞のロバート・シラー教授はこう表現しています。「パッシブ運用は他人の努力へのフリーライダー(タダ乗り)だ」

2021年3月、「証券アナリストジャーナル」に掲載された論文「バリュー投資の再考 完全予見による評価」が話題になりました。過去約40年間の日米株式市場のデータを詳細に分析した同論文が導き出した結論は次の通りです。

「2010年以降は割安であってもそれだけでは株式市場による価格発見機能が発動せず、利益の改善が価格発見機能の発動条件になっている。2018年以降に限っていえば、利益の改善があったとしても価格発見機能が働いておらず、株式市場は深刻な機能不全に陥っていると考えられる」(出所:2021年3月15日付日経新聞)

これは割安な銘柄が買われ、割高な銘柄が売られるという株式市場の機能が働いていないこと。さらに企業業績が株価に反映されていないことを意味します。このことは、パッシブ化の弊害を裏付ける事象とも言えます。市場は市場参加者を写す鏡でもあります。自分さえよければいいというフリーライダー(タダ乗り)が増えれば、株式市場の壊すことにつながり、結果的に自分で自分の首を絞めることにつながるのです。

ただし、インデックスファンドの存在が悪というわけではありません。インデックスファンドのリターン(市場の平均リターン)を下回り続けるようなアクティブファンドの淘汰に役立つ側面もあります。真っ当な企業分析もできないファンドマネージャーの淘汰です。今まで、私は投資の初心者には、ポートフォリオ理論の観点からも、インデックスファンドへの投資を勧めてきました。そんな私も行き過ぎたパッシブ化の弊害を考えざるを得なくなりました。

今後は「インデックスファンド(TOPIXではなくS&P500やMSCIオールカントリーワールドインデックスなどに連動するファンド)に少しずつ投資しながら、知識や経験を積んだら、これはと思うファンドマネージャーが運用するアクティブファンドへの投資も検討する」ようアドバイスしたいと思います。

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