シャープは、5月18日にソフトバンク設立の私募ファンド「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」へ参画することを発表しました。
ファンドが投資の実行を決定する度に、シャープはファンドへの出資割合に応じて資金を拠出することとなります。投資期間は5年間であり、この間のシャープのコミットメント額(拠出額の上限)は10億USドル(約1,126億円。1USドル=112.64円で換算)です。
参画の理由をシャープの発表資料からみてみましょう。
当社は、2017年3月期連結業績において、全事業の収益力回復を通じて3期振りの営業黒字を達成し、更なる成長軌道への転換を図るべく、様々な検討を進めております。中でも、IoTをキーワードに変革が進みつつあるグローバルな潮流の中で、新生シャープとして再び輝きを取り戻し、世界有数の「IoT企業」へのトランスフォーメーションに向けて攻めの事業拡大を進める方針です。
本ファンドは、IoTを始めとする最先端テクノロジーに対して出資することが予定されており、その資金量は現時点で世界最大規模と目されることから、新たな事業分野の創出、パラダイムシフトが期待されます。当社は、このような本ファンドへ参画し、IoT市場の知見を取り入れる機会を得ることが、当社が目指すIoT企業としての事業展開を加速するものと判断し、本ファンドへ参画することといたしました。
まずは、シャープの過去10年間の業績を振り返ってみましょう。シャープは2007年3月期と2008年3月期は増収増益で、過去最高益を更新していました。液晶テレビのアクオスが「世界の亀山モデル」として一世を風靡していた時期です。
この好業績を背景に大型設備投資を行ったわけですが、2007年3月期から2011年3月期の5年間をご覧ください(下図①)。なんと、このうち4年間はFCFがマイナスであることがわかります。これは、投資活動が十分に営業活動に結びついていないことを意味しています。
投資が失敗であったことが決定的となったのは、2012年3月期と2013年3月期です。この2年間は営業活動によるキャッシュフローがマイナスに転落しています(上図②)。つまり、本業で全くキャッシュを生み出すことが出来ていないということです。まさに赤信号がともったと言えます。
再生と成長にむけて中期経営計画を発表するものの、依然として業績を低迷したままです。このことは、2015年3月期と2016年3月期の営業活動によるキャッシュフローがそれぞれ173億円、▲189億円であることから一目瞭然です(上図③)。
会計的には、2016年3月期についに債務超過に転落となりました。債務超過というのは、金融庁の定義では破綻が懸念されるという状態です。2007年3月期の時点で1兆1,830億円ほどあった自己資本(同比率39.9%)が10年間の赤字の累積で吹き飛んだことになります(2016年3月期自己資本▲430億円)。
その後、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業による3,888億円の出資によって、鴻海はシャープの66%の株式を持つ親会社となりました。これにより、債務超過は解消することが出来ました。
それでは鴻海の子会社となった新生シャープの初の決算はどうだったのでしょうか。確かに会社発表の通り、2017年3月期はまさに3期ぶりに営業利益が黒字となりました。全事業の収益力の回復と説明していますが、営業利益増減分析(下図ご参照、同社決算発表資料)を見てみると一概にそうとも言えないことがわかります。
「販売減・売価ダウン」による営業利益減少1,453億円を「コストダウン・モデルミックス改善」1,747億円でカバーしています。ただ、これだけでは営業利益黒字には、ほど遠いことがわかります。これに加えて、「経費削減」557億円、さらに「構造改革・人員適正化効果」1,479億円によって黒字化に成功しているのです。
気になるのは、「構造改革・人員適正化効果」の中身です。シャープの戴社長は以前、この改革について「人員削減ではなく適正化だ」と語っています。今後も継続して効果が出てくるものなのかどうか。今期限りのものであるとすれば、来期以降、営業黒字を達成するためには、販売面での一層のてこ入れを図っていく必要があるだろうということです。つまり、まだまだ、シャープは再生の途上にあるということなのです。
2017年3月期の営業キャッシュフローは、1,272億円でした。投資期間は5年にわたるとは言うものの、今回の出資額約1,126億円は、1年間に稼ぎ出す営業キャッシュフロー相当の金額です。本来であれば、使える資金は自社内の成長分野に投資し、むしろ、ファンドから資金提供してもらう受ける立場になってもらいたいところです。虎の子の資金をファンドに投資し、その後どうなっていくのか、シャープの今後に注目したいと思います。