企業は、市場調査に多額のお金をかけています。この情報の価値を算定している企業はどれほどあるのでしょうか。市場の将来を完璧に予測するレポート(完全情報)の価値を算定するためには、ディシジョンツリーが役にたちます。次のような事例で考えてみましょう。
あなたの会社XYZ社では新商品を開発中です。商品化し、ヒットすれば50百万円の事業価値、ヒットしなければ100百万円の損失が見込まれるとします。ヒットする確率が70%とすると、ディシジョンツリーは次のように描くことができます。
□と○のマークがあります。□のことを決定ノードといいます。決定ノードではどちらの選択肢を選ぶかは私たち自身で決めることができます。つまり、□は意思決定の選択肢が枝分かれする箇所であるといえます。また、○のことを確率ノードといいます。○の枝分かれについて、私たちはコントロールすることはできません。各事象の下にあるパーセンテージはその事象の発生確率を表しています。
ディシジョンツリーは、左側から右側にツリーを枝分かれさせるように描きます。分析の段階では、逆に右側から左側に時間をさかのぼるように見ていくことになります。これをバックワードインダクション、あるいは後戻り帰納法と呼びます。まずは、確率ノードにおける事業価値の期待値を求めることになります。ヒットする確率は70%です。したがって、期待事業価値は次のように計算できます。
期待事業価値=50百万円×70%+△100百万円×30%=+5百万円
決定ノードでは事業価値の大きい方を選択します。商品化しなければ、期待される事業価値は0です。商品化した場合は事業価値が5百万円ですから、商品化して、事業価値5百万円の獲得を目指すことになります。
次にヒットするかどうかを確実に当てることができる完全情報が入手できるとします。この情報にいくまでなら支払う価値があるでしょうか。ディシジョンツリーは次のようになります。
ヒットするという完全情報を入手すれば、私たちが商品化するはずです。一方、ヒットしないという完全情報の場合は、商品化しませんから、期待事業価値はゼロになります。ヒットするという完全情報を入手する確率が70%、ヒットしないという完全情報を入手する確率が30%ですから、この場合の期待事業価値は次のように求めることができます。
期待事業価値=50百万円×70%+0×30%=+35百万円
完全情報の価値は、完全情報がある場合の期待事業価値(35百万円)とない場合の期待事業価値(5百万円)の差、30百万円ということになります。完全な情報の価値が分かれば、不完全な情報の価値の上限も分かるわけです。不完全な情報である市場調査には、それより低い値段をつければいいことになります。このようにディシジョンツリーを使えば、完全情報の価値を算定することができるのです。