ESG(環境・社会・企業統治)に思うこと

2019年7月9日付の日経新聞によれば、ESG(環境・社会・企業統治)投資の裾野が投資家や企業に広がり始めたようです。2018年度に国内で発行した環境債などESG関連の債券は6539億円と、前年度比3.5倍となりました。

今年2月には、米通信大手のベライゾン・コミュニケーションズが10億ドル(約1070億円)規模の「グリーンボンド(環境債)」を発行しました。米国の通信企業として初めて、持続可能な事業のための資金調達を「グリーンボンド(環境債)」で行ったのです。

市場参加者を驚かせたのは、調達コストが「ブラウンボンド(普通の社債)より若干安かった」ということです。10億ドルのグリーンボンドには投資家の需要が殺到、発行額の8倍の申し込みがあり、ベライゾンのこれまでの起債の中でも最も人気を集めたといいます。

こうした流れに少なからず影響を与えているのは、ラリー・フィンク氏の書簡です。世界最大の運用会社ブラックロックの会長である同氏は、投資先企業のトップ宛に毎年書簡を送っています。たとえば、2018年の書簡では次のようなことを言っています。


時を超えて繁栄するには、どんな企業も財務的業績を上げるだけではなく、社会に対してどのようにプラスの貢献を行うのかを示す必要がある。企業は、そのすべてのステークホルダー(株主、従業員、顧客、そして関わりを持つコミュニティ)を利するものでなければならない。

貴社の戦略は財務的業績を達成する道筋を明確に表現できるものでなければならない。しかし、その業績を持続させるためには、貴社の事業が持つ社会への影響、さらには広範かつ構造的な潮流-賃金上昇の低迷、オートメーションの進化から気候変動に至るまで-が貴社の潜在的な成長にどのように影響を与えているのかを理解することもまた必要だ。

出所:「ESG経営を強くする コーポレートガバナンスの実践(松田千恵子著)


2019年がESG投資普及の年だと言われ始めています。そんな時だからこそ、私たちは立ち止まって考えてみる必要があります。そもそも、企業が「環境、社会、企業統治(ESG)」に配慮するのは、当たり前です。

ブラックロックの偉い会長がわざわざ言わずとも、企業が時を超えて繁栄するには、そのすべてのステークホルダー(株主、従業員、顧客、そして関わりを持つコミュニティ)に配慮すべきなのは当たり前なのです。

パナソニック創業者の松下幸之助氏はこう言っています。「宇宙生成の理に則った経営をすれば企業は永続する」

その当たり前のことが出来ていないからESGが大切なのだという人はいるでしょう。ただ、ESGをことさら声高に叫ぶのは、何かこのESGが商売の道具、いや「商品」そのものになりつつあるという気がします。かつて一世を風靡したCSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)の時と同じです。企業が経済活動に邁進するだけでなく、社会的責任を全うすべきということです。

CSR流行の際、多くの企業が行ったのは、企業理念とは直接関係のない植林活動や寄付活動でした。そして、コンサルティング会社に多額のフィーを払って、誰が読むかわからない立派なCSR報告書を作ったのです。

ESGを企業理念や企業戦略と切り離して論じてもらっては困ります。なぜなら、ESGの目的は「中長期的な企業価値の向上」だからです。あくまでも本業を通じて環境や社会に良い影響を及ぼすことができ、ガバナンスがしっかりしているような企業こそが中長期的に成長し、結果的に企業価値が高められるはずだという信念が底流にあることを忘れてはなりません。

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