最近「会社四季報から始める企業分析 最強の会計力」という本を読みました。これはこれで面白い本でした。ですが、今回取り上げたいのは、この本の中で企業価値経営に取り組んでいる企業として紹介されていたピジョンです。
ピジョンという会社が業績好調、株価も右肩上がりであるというのは知ってはいました。そして、創業者が哺乳瓶の乳首を開発するために実際に出産経験がある女性1,000人近くの乳首を吸ったという有名なエピソードは知っていました。ただ、この企業が具体的にどのような取り組みをしているのかは知りませんでした。
今回調べてみて、ピジョンという企業の素晴らしさに驚きました。今まで、この企業が私のスコープに全く入ってこなかったことを悔しく思うほどです。
前置きが長くなりました。ピジョンの社長である山下茂氏へのインタビュー記事から注目すべきものを取り上げてみたいと思います。
ピジョンはEVA(経済付加価値)のピジョン版であるPVAを経営指標として採用しています。山下社長はこう説明しています。
当社は借り入れの利率や株主期待収益率を加重平均したWACCを5%とし、投下した資本にそれを掛けたものを資本コストとして、それを上回る利益を上げることを目指しています。PVAは税引き後の営業利益(NOPAT)から資本コストを差し引いた指標です。当社はNOPATを重要視していますが、 NOPATを増やすために資本コストをいたずらに膨らませても効率が悪く、双方のバランスを見て考える必要があります。
出典:日経新聞 ニッポンの企業力 ホームページ
山下社長は、全社員がどうすればPVAを上げることができるか、を考えてくれるよう意識付けに力を入れているといいます。事業をする上で、資金が必要である、その資金は、投資家や銀行から借りているものだということを従業員に強く意識してもらうことが大事であると言っています。
PVA導入の経緯ついては、こう説明しています。
今は売り上げ、利益だけで判断する時代ではないことははっきりしています。どのように資金を効率的に稼いでいくか、言い換えるとより企業価値を高めているか。それをより合理的に数値で説明する方法の1つが、PVAなのです。新規事業でもいかに早く資本コストを超えた利益を生み出せるか、それを意識するのが大事です。事業部門ごとで展開し、 PVAの額がどの位増えているかを見ています。
出典:日経新聞 ニッポンの企業力 ホームページ
さらにすごいのは、2015年1月期からのPVAの数値公表に踏み切っていることです。これは驚くべきことです。半期ごとに数字を開示して、実際にPVAが改善しているのか、改善していなければ何が問題なのか、どう改善していくのかを投資家にきちんと説明しているのです。
そして、PVAを額だけでなく、率でも表現しているところがまた素敵です。おそらく、人は額よりも率の方が理解しやすいからでしょう。
今後の課題を聞かれた山下社長はこう答えています。
まずはPVA改善の施策をより具体的に社員に示す必要があります。その点は精度を高める必要があると感じています。在庫と欠品のバランスを考えながら常に適正な在庫水準を維持できるようなサプライチェーンを構築する必要もあります。経営指標としてはCCCも重視しています。例えば、売掛金の回収を短縮し、在庫も適正在庫を意識しながら管理する、これを世界規模で行っていくということです。グローバル企業では買掛金の期間を長くするところもありますが、まずは在庫の削減に取り組んでいきます。
出典:日経新聞 ニッポンの企業力 ホームページ
PVAツリーだけでなく、CCCツリーまでも公表しているんです。
極めつけは、ピジョンの経営理念・社是です。参りましたという感じです。ピジョンが考える企業価値とは、社会価値と経済価値です。社会価値とは、社会や顧客にとってなくてはならない存在であること、経済価値とは、将来フリーキャッシュフローの現在価値の合計であると明確に定義しています。このバランスがうまく取れている企業という印象です。こんな会社で働きたくなりますよね。