決算書の目的は、企業の利害関係者である株主や金融機関などの債権者に企業の業績を説明するものです。この決算書が企業の意思決定には使えないということを知ったときはショックでした。なぜ、企業の意思決定に使えないかといえば、決算書には数量の概念がないからです。
売上高は要素分解すると、価格×数量になります。ところが、決算書では、売上高という形で表記されているだけです。売上高が減少したといっても、価格が減少したのか、数量が減少したのか、はたまた両方が減少したのかという情報がないわけです。これでは、未来予測の参考にするのも難しいわけです。
未来を予測する場合は、費用を変動費と固定費に分けて考える必要があります。というのも、変動費と固定費では変化の仕方が異なるからです。ただし、「変動費は、売上高に比例して変化する費用」という理解の仕方をしていたら、いつまでたっても儲かるようにはなりません。変動費とは、売上高に比例して変化しないからです。
具体的にご説明しましょう。シャープペンシル1本の価格が100円だとします。このシャープペンシル1本をつくる材料費が例えば、30円だとします。材料費というのは、変動費です。このシャープペンシルが3本売れた場合、売上は300円、変動費は90円(=30円×3個)になります。
それでは、シャープペンシルの価格を10%と値下げして90円にしたとしましょう。シャープペンシル3本の売上は270円になります。材料費(変動費)はいくらでしょうか。そうです。材料費(変動費)は90円(=30円×3個)で変わらないわけです。
売上高は10%減少したのにもかかわらず、材料費である変動費は変わりません。変動費は、売上高に比例して変化する費用ではないのです。
変動費というのは、価格が下がっても減りません。数量が減って初めて、材料費も減るわけです。変動費は、「数量比例費」と考えなくてはいけません。売上高減少といっても、価格が下がるのと、数量が下がるのとでは、コストに与えるインパクトがまったく違うということなんです。
このように考えると、「損益分岐点分析」も注意が必要です。損益分岐点とは、利益がトントンになるような売上高のことを言います。実は、損益分岐点というのは、単価が一定という隠れた前提があるのです。損益分岐点というのは、正確にいえば「利益がトントンになる販売数量」ということになります。
仮に、損益分岐点売上高を上回る売上高を獲得できたとしても、価格を下げて、その分数量を増やして売上高を達成したのであれば、実際には赤字になるということは十分あり得るということなのです。