前回のブログでは、政策保有株の「便益」と「資本コスト」をどう考えるかについて私見を述べました。
今回は実際の企業はどのような方針を掲げているのか、カゴメの例をご紹介したいと思います。カゴメは、2018年6月に「コーポレート・ガバナンス報告書」を公表しています。この中で政策保有株の経済合理性の検証方法を明示しています。
直近事業年度末における各政策保有株式の金額を基準として、これに対する、発行会社が同事業年度において当社利益に寄与した金額の割合を算出し、その割合が当社の単体5年平均ROAの概ね2倍を下回る場合には、売却検討対象とします。また、簿価から30%以上時価下落した銘柄及び、当社との年間取引高が1億円未満である銘柄についても、売却検討対象とします。その上で、得意先企業のうちこれらの基準のいずれかに抵触した銘柄については、毎年、取締役会で売却の是否に関する審議を行い、売却する銘柄を決定します。
出典:カゴメ「コーポレート・ガバナンス報告書」一部抜粋
当社利益に寄与した金額の割合をどのように算出するのか気になるところではありますが、カゴメ単体の5年平均ROAの概ね2倍をクリアしていれば、少なくとも資本コストに見合っていると考えていることがわかります。
私が気になった点は、「政策保有株主から売却の意向を示された場合の対応方針」です。
当社は、当社の株式を政策保有株式として保有している会社(政策保有株主)から当該株式の売却等の意向が示された場合には、無条件でこれを承諾します。また、その場合において、当社が当該政策保有株主である会社の株式を政策保有株式として保有しているときは、できる限り速やかにこれを処分します。
出典:カゴメ「コーポレート・ガバナンス報告書」一部抜粋
これはカゴメが政策保有株式を積極的に解消していこうとしているともとれますが、うがった見方をすれば、「持ち合っていた株式を売ろうとしたら、こちらも売りますからね。わかっていますよね」と相手をけん制しているようにもとれます。
政策保有株を持っている企業からするば、市場からの解消の圧力は高まっているとはいえ、売却することで取引先との関係が悪化するのを嫌って、自分の方からは積極的には動きたくないのでしょう。特に競合他社が同じような企業と株式を持ち合っていれば、自分たちだけ持ち合い解消に動きずらいのは確かでしょう。
日産自動車再建の過程では、持ち合い株式売却に反対する営業サイドに対して、当時のCFOのムロンゲさんは例外なくすべて売却と発言していたのが非常に印象的でした。
会社が危機に陥らなければ、やるべきことを自ら進んでやろうとしない日本的な企業のあり方が出ている気がします。持ち合い株式を持たずとも、本業で勝負する企業が増えてほしいと思います。