東芝は2021年11月12日付でグループ全体を3つの会社に分割すると発表しました。中核事業を2つの会社としてスピンオフし、独立した3つの会社になります。スピンオフ(Spin-off)は会社分割の1形態として米国ではよく実施されます。
今回で言えば、東芝が中核事業を別会社として分離し、分離した会社の株式を東芝の株主に持分比率に応じて無償で割り当てるものです。スピンオフが実施された直後は、東芝とスピンオフされた2つの会社の株主は同じですが、両社の間には資本関係はなくなります。
今回、スピンオフされる2つの会社、インフラサービス Co.(仮称)とデバイス Co.(仮称)は2023年度に新規上場を目指すとしています。東芝はスピンオフの狙いを、1.価値の顕在化、2.専門的かつ俊敏な経営、3.株主の選択肢の増加、としています。
出所:2021年11月12日付「株主価値向上に向けた東芝の変革」
経営陣がとって代わるのでなければ、分割したところで「専門的かつ俊敏な経営」が出来るとも考えにくいのですが、「価値の顕在化」や「株主の選択肢の増加」というのは理解できます。
東芝は、「スピンオフは、コングロマリット・ディスカウントの解消につながる」と説明しています。東芝は様々な事業を営むコングロマリット(複合企業)です。かつて、コングロマリットはリスクを分散し、収益を安定化させると言われました。
しかし、ファイナンスの観点からは、コングロマリット・ディスカウントという言葉が示す通り、コングロマリットは評価されません。リスク分散は投資家が自ら行うことが出来ます。むしろ、はっきりしたシナジー効果がない複数の事業を抱える複合企業に対しては投資家は厳しい目を向けるのです。
複数事業を抱える企業の場合、投資家はそれぞれの事業を詳しく評価することができません。今回のように別々の企業に分けた方が事業内容を評価しやすくなり、より適正な価値評価につながる可能性があります。
また、例えば、東芝のデバイス事業の成長性に関心があり、東芝の株式を所有していた株主は会社が分割されることで、東芝本体やインフラサービス Coの株式を売却し、デバイス Coに集中することができるようになります。株主にとっては、従来より選択肢が増えるともいえます。
ただ、当たり前ですが、1万円札をいくら両替したところで、1万円にはかわりはありません。同様に会社分割しただけでは、各社のフリーキャッシュフローは増えることはありません。分割したことにより、フリーキャッシュフローがどう増えるのか、その成長戦略を株主に説明する責任があることを経営陣は忘れてはならないでしょう。